アースとグランドリフト

 複数のアンプを切り替えて使用できると、大変便利です。ただ、複数のセレクターを使用すると大きなアースループができてしまい、ノイズを拾いやすくなりかねません。アースとアースループについて整理してみたいと思います。 

平衡伝送路とグランドリフト
グランドリフト

 アース、グランド、接地と言葉は色々ありますが、どれもあいまいな気がします。ここでは大地に直接接続することを、アース(大地への接地)、大地に接続しない信号の基準点を 信号グランド(信号基準点)と( )を付けて言うことにします。


2022年11月掲載


アース(大地への接地)と雷


アンテナと雷雲

 以前、20mのアンテナを設置していました。アンテナの一端は、アース(大地への接地)との間に数mmの短ギャップを設けていました。黒い雲が近づくと、まだ雷鳴は聞こえていないときでも、短ギャップに放電の火花がとび続けます。大地に放電電流が流れていることになります。かなりの高電圧が発生していることになり小さな落雷です。

アンテナと雷
アンテナと雷

落雷とLANボードの故障

 雷鳴と同時に、近くにあったパソコンで火花が飛びました。分解するとLANボードのコンデンサがパンクしていました。原因は明確にはなっていませんが、電力会社の配電網と同軸ケーブルの間に、落雷による電位差が生じ一番弱いコンデンサがパンクしたと推測しています。同軸ケーブルの先の仕組みは不明のままですが、光ファイバーのネットワークに変更したので、同様の問題は起こっていません。

LANボードの故障
落雷によるLANボードの故障

雷雲と放電電流

 前述した体験の影響が大きいと思いますが雷の事が気になります。黒い雲が近づくと大気は地表近くまで地表面と対になり、かなりの電荷を蓄積していると思います。電力会社やNTTの架空線を通して放電、すなわち電流が発生していると考えられます(1)(2)。落雷に至らなくても地表面にはかなりの電流が流れ電位勾配ができているのではないでしょうか。具体的なデータは持っていません。

Phono Selector
雷雲と放電電流

パルスや高周波を扱う機器の漏れ電流


インバーターの漏れ電流

 インバーターなどパルスや高周波を扱う機器では、大地に対する浮遊容量を通して漏れ電流が発生します。容量の大きなインバーターを使用する工場等では10mA程度の漏れ電流はあちらこちらで発生しているでしょう。家庭用のエアコンなどでは、漏れ電流はそこまで大きくは無いでしょうが、数が集まれば無視できません。
 先日、電力会社の4年毎の定期点検がありました。我が家は住宅地にある一般的な一戸建ですが漏れ電流は0.7mAでした。電柱のアース(大地への接地)ポイントに向い大地を伝い、我が家から0.7mA流れていることになります。

アースとインバーター
インバーターなどの漏れ電流

サージ、ノイズと漏れ電流

 家庭用のAC100Vのコンセントでかなりのサージやノイズが観測されているという報告はよく見ます(3)。サージやノイズが乗っているということは、発生源ではパルスや高周波が発生しているということです。それらの機器では対地の浮遊容量を通して大地に漏れ電流がながれます。ACコンセントにサージ、ノイズが乗っているということは、それに相応した漏れ電流が大地に対して発生しているとも言えます。


大地に繋ぐ、繋がない


アンプの残留ノイズレベルと大地の電位

 感電事故を防ぐという意味では大地の電位は安定していると言えると思います。ただ、真空管フォノイコライザーの残留ノイズは入力側では数μVです。この1/100とすると数10nVのレベルになります。データを持っていないので具体的には言えませんが、10nVに対してどうかという検討が必要だと思います。

大地と繋ぐ Selector
外界と繋がったオーディオルーム

電源トランスによる絶縁

 AC100Vコンセントは、多分ノイズ源になると思われます。ただ、電源トランスで絶縁できます。もちろんノイズの侵入を完全には防げませんが、効果はあると思います。信号グランド(信号基準点)を3Pコンセントのアース(大地への接地)に繋ぐとノイズの侵入が心配です。一般的な2Pのコンセントも片側は電力会社の柱上トランスでアース(大地への接地)されています。様々なノイズが配電線を通して大地にな流れていると思います。
 我が家のオーディオシステムは、AC100Vコンセントからは電源トランスで絶縁し、信号グランド(信号基準点)は電位としては浮いている形で使用しています。
 大きなシステムでは絶縁するのも大変なことだと思いますが、我が家のオーディオシステムは絶縁していきたいと思います。

浮いている信号グランド(信号基準点)r
浮いている信号グランド(信号基準点)

RCAケーブルとアースループ


RCAケーブル

 RCAケーブルをアンプの接続に使用すると、LchとRchのシールド網線がアースループを作ります。ほとんどのアンプはこのように接続されていると思います。製作記事も同じようになっているようです。

RCAケーブルの接続 Selector
LchとRchのシールド網線がループを構成

 RCAケーブルのシールド網線の結線について調べて見ました。百瀬了介氏は、プリアンプの電源をパワーアンプと共用しているという前提ですが、プリアンプ側のシールド網線はケースに接続せずパワーアンプ側のみで接続し双方の信号グランド(信号基準点)を1本の線で繋ぐように述べています(4)。上杉佳郎氏は、アンプ内部で使用するシールド線は片側のみケースに接続するように述べていますがアンプ間のケーブルは入出力ともにケースに接続しているようです(5)。

RCAケーブルの接続 Selector
シールド網線は機器の出力側では接続しない
RCAケーブルの接続 Selector
Rchのシールド網線は機器の出力側では接続しない

 上の図のように、機器の出力側ではシールド網線を接続せずに、信号グランド(信号基準点)を別のケーブルで接続するという方法や、機器の出力側でLch、Rchどちらかのシールド網線を接続しないという方法でアースループは解消します。ただ、RCAケーブルの利便性がなくなります。購入している製品は改造することになります。なかなか踏み切れません。

アースループ

 我が家のフォノイコライザーは、2台のレコードプレーヤーと2台のフォノイコライザーを切り替えるセレクターと接続されています。RCAケーブルの網線は一般的な接続で下の図のようにアースループができています。ただ、通常の音量では、ノイズはスピーカーに耳を近づけるとかすかに聞こえる程度で問題は感じていません。

大地と繋ぐ Selector
アースループ

 実験的にRchのケーブルを1mから2mに伸ばして直径30cm程度のループをつくりました。フォノイコライザーの入力ですので盛大にノイズを拾いました。ただ、これはアースループではなく、高インピーダンスのRchの信号線のループでノイズを拾ったと思います。RCAケーブルを短くする必要性を改めて実感しました。

大地と繋ぐ Selector
アースループ

 5mの電線を下の図のように接続し大きなアースループを作りました。ノイズに変化はありませんでした。我が家の環境では、この程度のアースループでは影響がないことが解りました。この実験では信号ラインは変えておらず信号線の長さは1mです。ノイズとして入力されるのは、1mの信号線部分の両端の電圧ですので、アースループが大きくても影響を受ける信号線部分が短いと影響は小さくなると考えられます。

大地と繋ぐ Selector
アースループ

平衡伝送路とグランドリフト


グランドリフトスイッチ

 スタジオなどで使用する機器にはグランドリフトスイッチが備えられ、グランドリフト機能を有効にすると、アースループが切れる仕組みがあります。対象となるエリアが広く多くの機器が接続されるスタジオや舞台ではアースループに困っているのでしょう。
 アースループを切って他の機器との関係を絶つという方法は、複数のフォノイコライザーやコントロールアンプを切り替えて使用するような場合に有効だと思います。

平衡伝送路とグランドリフト
平衡伝送路とグランドリフト

トランスによる平衡伝送路と絶縁

 上の図のようにコントロールアンプとパワーアンプをトランスによる平衡伝送路で繋ぐと、グランドリフト機能を実現できます。電源トランスでAC100Vコンセントからも絶縁すると、周囲から隔離された静かなコントロールアンプが実現できるように思います。


後記


 アースについて書き始めましたが、絶縁という結論になりました。プロ用機器には、取り入れたい機能が色々ありますが、グランドリフト機能もそのひとつになりました。平衡伝送路の良さも改めて感じました。


参考文献


(1)伊藤健一 アースのはなし 2007年6月5日 日刊工業新聞社
(2)橋本信雄 雷とサージ2000年1月25日 電気書院 
(3)宮崎誠一 よく分かる実用ノイズ対策 宮崎技術研究所 http://www.miyazaki-gijutsu.com/series2/noise101.html 2022年9月8日閲覧
(4)百瀬了介 ハイファイアンプの設計 ラジオ技術全書 1961年 ラジオ技術社
(5)上杉佳郎 上杉佳郎 管球式ステレオアンプ製作80選上巻 2011年5月25日 誠文堂新光社