STAX コンデンサスピーカー ESS-6Aの修復

 コンデンサスピーカーは、2枚の固定電極と間に挟まれた導電性の薄膜の間にバイアス電圧を印加しておき、信号電圧により発生する正負の電荷量の変化により、薄膜に加わるクーロン力が変化し振動発音します。一般的な電磁力によりコーンに設けられたボイスコイルを振動させるスピーカーと比べると、可動部が圧倒的に軽く、薄膜全体が直接駆動されるので低ひずみで澄み切った自然そのものの音、臨場感(1)を特長にしています。

ESS-6A
我が家のSTAX ESS-6A
ESS-6Aspec
STAX ESS-6A カタログ抜粋

 我が家のESS-6Aは、ウーファーが左右とも正常に機能していないようです。ウーファーは1台に6ユニット使われていますが、6ユニット全て正常ではないようなので、バイアス電源の問題である可能性が高いと思われ電源部から修復にチャレンジしたいと思います。


2021年3月掲載


裏面の様子


 ESS-6A裏面下部のStaxのロゴのある白い箱がバイアス電源ユニットで、右にある黒い箱がネットワークです。下部の木製の蓋を外すとバイアス電源ユニットの全容が現れます。4kV程度の高電圧が発生しています。電源を切っても高電圧がコンデンサに蓄積されており感電すると、かなり危険です。蓋は開かない方が賢明です。

ESS-6A裏面
ESS-6A 裏面
ESS-6A裏面下部蓋を開ける
ESS-6A 裏面下部の蓋を開く
ESS-6A裏面下部バイアスユニット
ESS-6A バイアス電源ユニットを開ける

バイアス電源ユニットの分解


バイアス電源ユニット

 基板表面に高電圧発生回路のダイオードが見えます。コンデンサとトランスは、パラフィンで固められています。

ESS-6Aバイアス電源回路
バイアス電源ユニット
ESS-6Aバイアス電源回路
バイアス電源ユニット 基板表面

部品の掘り出し

 高電圧発生回路の基板とトランスをパラフィンから掘り出します。基板に接続されている電線を記録して切断します。トランスはネジで固定されているのでナットに向かって掘り進みます。パラフィンはそれほど固くないので、マイナスドライバーを使います。ナットが見えたらラジオペンチでつかんで、ドライバーでネジを緩めます。ネジ溝にパラフィンが詰まって固くなっています。ネジが取れたら、トランスの周りから掘り進めます。ある程度パラフィンを除去できたらケースをドライヤーで温めます。パラフィンが柔らかくなったところで、トランスを引き抜きます。トランスと基板が取り出されました。 

ESS-6Aバイアス電源回路掘り出し1
トランス取り付けナットの掘り出し
ESS-6Aバイアス電源回路掘り出し1
基板とトランス
ESS-6Aバイアス電源回路掘り出し1
基板裏面のコンデンサ

 2台目は、トランスの取り付けネジを外したあと、ケースを温めて思い切ってトランスを引っ張ると、トランスと基板がごっそり外れました。2台分のパラフィンは、どんぶり2杯分になりました。

ESS-6Aバイアス電源回路掘り出し1
トランス取り付けナットの掘り出し
ESS-6Aバイアス電源回路掘り出し1
掘り出したパラフィン 2台分

高電圧発生回路


バイアス電源ユニットの回路

 パラフィンから掘り出した基板とトランスから回路図を作成します。分解結果を詳細に記述されているブログが大変参考になりました(2)(3)。バイアス電源ユニットの回路は次の図ようになります。コンデンサとダイオードで構成された梯子状の部分がコッククロフト・ウォルトン回路で図に示した回路の場合4倍の電圧が発生します。トランスの1次巻き線が117Vで二次巻き線が750Vなので、1つ目のコンデンサの充電電圧は、
 750 x 100/117 x √2 = 904 (V)
となります。ウーファーには、4倍の3616Vが、ツイーター、スコーカーには、2倍の1808Vが印加されます。

ESS-6Aバイアス電源回路
ESS-6Aバイアス電源回路

高電圧発生回路の製作

 高電圧を発生するコッククロフト・ウォルトン回路のダイオードとコンデンサは狭いスペースに押し込まれています。高電圧が印加されるところなので、同じように押し込めることは、今後のメンテナンスを考えると避けたいと思います。
 高電圧発生回路の収納ケースを用意し、広い場所に収めることにします。アルミシャーシを加工したケースをオリジナルのバイアス電源ユニットの下に抱きかかえる構造としました。交換用部品は次のようになりました。

ESS-6A高電圧発生回路の交換部品
高電圧発生回路の交換部品

 ラグ板に部品を取り付けます。不要な端子は取り除き絶縁距離を確保します。

ESS-6Aバイアス電源回ラグに部品取り付け
ラグ板(下)と不要な端子を除去したラグ板(上)
ESS-6Aバイアス電源回ラグに部品取り付け
高電圧発生回路

バイアス電源ユニットの再組立


 基板からパイロットランプ用の100Ωの抵抗以外の高電圧発生回路の部品を取り除きます。基板はトランスの中継端子として使用します。基板とトランスを元にもどします。パラフィンの充填は試運転の後にします。
 新規に製作した高電圧発生回路のラグ板をオリジナルのバイアス電源ユニットの下に設けたケースに納めます。このケースの底面にはベークライトの板を敷いて絶縁距離を確保しています。ラグ板の取り付けはプラスチックねじを使っています。

 
ESS-6Aバイアスユニットの再組立て
バイアス電源ユニットの再組立

 バイアス電源ユニットを本体に取り付け、配線を元通りに戻します.

ESS-6Aバイアスユニットの再取り付け
バイアス電源ユニットの再取り付け

接続ケーブルの変更


接続ケーブル

 オリジナルの接続ケーブルは、長い4芯ケーブルで、そのうち2本をAC100Vの供給に、2本をオーディオ信号に使用しています。ACコンセントもメインアンプもスピーカーの近くにあり、このケーブルは大変使いにくいので、オーディオ信号は専用の端子を別に設けます。ただ、ネットワークユニットから出ている4本の信号線がコネクタの中で接続されています。ネットワークユニットは分解していませんので回路は不明ですが、この線を繋ぎ変えるとインピーダンスの変更ができるようです。コネクタ内部の接続の通りに配線します。

ケーブル
オリジナルのケーブル
コネクター
コネクタの内部接続

 オーディオ信号の端子には、線押さえ付のねじ式端子台を使用します。一般的なスピーカー端子に比べドライバーが必要になりますが、使いやすく信頼性も高いと思います。ネットワークユニットの横にとりつけます。

ケーブル
オーディオ信号の端子

電源スイッチの追加

 ESS-6Aには電源スイッチがないので不便です。スイッチボックスを作り左スピーカーの底に取り付けました。パイロットランプをつけサービスコンセントで右スピーカーの電源も供給できます。オリジナルのケーブルは短くして電源コードとして使用します。大変すっきりと接続できるようになりました。

スイッチボックス
スイッチボックス
スイッチボックスの内部
スイッチボックスの内部
スイッチボックスの全景
スピーカーの底に取り付けたスイッチボックス

後記


部屋の全景
復活したESS-6A

 ウーファーが復活しました。高電圧発生回路をリニューアルしただけですが、50年前の音が蘇ったように感じます。穏やかな、それでいて輪郭の明瞭な音です。自然な音なのでしょうか、時間を忘れて聴き続けてしまいます。
 しばらく様子を見てから、パラフィンの再充填を行いたいと思います。高電圧発生回路以外にネットワークユニットや発音ユニットもパラフィンで固められています。パラフィンで固めると、振動の抑制、機械的な補強、湿気の防止、絶縁の補強などいいことが色々ありそうです。いざとなれば除去することも割と簡単にできます。アンプなどにも応用してみたいと思います。


参考文献


(1)スタックス工業(株) ESS-3A/6A カタログ 1970年版
(2)AudioSpatial 甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ https://801a-4242a.blog.ss-blog.jp/archive/c2304347852-1 2021年3月3日閲覧
(3)山田典山 Staxコンデンサスピーカー再生作戦 https://ameblo.jp/yamadatenzan/entry-12324252190.html?frm 2021年3月3日閲覧