アンプの出力とひずみ率の関係のグラフを変更しました。併せて文章の訂正等を行いました。
音楽には、いろいろな楽しみ方があり、必要な出力も一概には言うことはできないと思います。木村哲氏は「居間で読書をしながら静かに音楽を聞いている時にスピーカーに入力されている電圧は、ほとんどゼロから大きくても1Vとか2Vくらいでしょう。」(1)と述べています。
ここではオーケストラの迫力を楽しむためにボリュームを最大にして音楽に没頭するというような場合の最大の音量に対しどの程度の出力が必要かを検討します。
通常聞いている音量より大きめの最大の音量をセットし、スピーカ端子のピーク電圧をオシロスコープで測定しました。
ムソルグスキー作曲 はげ山の一夜
ユ-ジン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
重々しさと喧噪が織りなす地獄の饗宴の後に、夜明けとともに現れる明るく平穏な世界が、私にも来てほしい。
7.5畳のリスニングルームでスピーカーから1.5mの位置で聴取。スピーカーはINFINITY Kappa 8.2i(出力音圧レベル 89dB/2.8Vrms、インピーダンス6Ω)
ほとんどの部分は、4Vpp以下でした。サビの部分の最大値は、8Vppでした。
8Vpp/2√2=2.9Vrms
2.9x2.9/6Ω=1.4W
アンプの最大出力は、1.4Wでした。
スピーカーの出力音圧レベル89dB/2.8Vrms より
89+2.9/2.8=89+0.3(dB)
視聴位置がスピーカーから1.5mの位置なので減衰は
-20log101.5=-3.5(dB)
スピーカー2本に対しては、出力が2倍になったと考え
20log102=6(dB)
総合すると
89+0.3ー3.5+6=91.8(dB)
かなり大まかな計算なので、数字を丸めるとリスニングポイントでの音圧は最大で、およそ90dBとなります。
参考文献(2)(3)(4)(5)をまとめると、音圧の最大値は、最前列で100~110dB、中央で90~100dBとなります。90dBは、ホール中央のやや小さい音圧となり、リスニングルームでの最大値としては妥当な値と思われます。
アンプの出力は実際の使用範囲としては、前述の測定ではピークで1.4W程度でしたが、測定誤差、曲による差を考慮し多めに2Wと看做します。百瀬了介氏は、最高音圧90dbを得るには、7.5畳の部屋で出力は2Wとなることを示しています(5)。
雑誌等の製作記事では,アンプの最大出力はクリップ寸前のひずみ率が5%程度の出力を指しているようです(2)。いくつかの製作記事から、NFBを使用していない無帰還真空管アンプの出力とひずみ率の関係をまとめると、次の図のようになります。ひずみ率5%のときの出力を1とし出力とひずみ率の関係を示しています。2本の曲線で囲まれた範囲におおよそ収まっているように思います。周波数別になっているときは1kHzの値としています。
出力を大きくしていくと、5%付近からクリップが始まり急激にひずみ率が大きくなります。最大出力の1/2まで小さくすると、クリップの影響はなくなりひずみ率は3%以下に収まると思います。このあたりが使用範囲の上限と考えます。最大出力の1/5まで小さくすると、ひずみ率が1%以下になり理想的と思います。
最大出力の1/2以下で使用するには、アンプの最大出力は4W、1/5以下で使用するにはアンプの最大出力は10W必要ということになります。『最大出力』という言葉は紛らわしいので、このクリップ寸前のひずみ率が5%の出力を『設計出力』ということにします。
以上により、わたしの環境では、アンプの実際の使用時の出力は最大2Wですが、設計出力(クリップ寸前のひずみ率5%の値)は4W以上ほしい。10Wあれば理想的と思います。ただし、アンプに要求される出力はスピーカの特性や部屋の広さ等に左右されると思われるので、それぞれのリスニング環境での検討が必要です。