高域を補正し10代の感性を取り戻そう
-聴覚の変化とトーンコントロールの関係ー

トーンコントロールの特性曲線
トーンコントロールの特性

2019年10月掲載


聴覚とトーンコントロールの関係


 オーディオシステムで音楽を楽しむ場合、生演奏との音圧の違いによる聴覚の補正等のためにトーンコントロールの必要性が述べられていますが、一方で不要という見解もあります。部屋やスピーカの特性もオーディオシステムの周波数特性に影響すると思いますが、ここでは聴覚とトーンコントロールの関係について検討しました。


音圧による聴覚の特性とラウドネスコントロール


等ラウドネス曲線

等ラウドネス曲線
図-1 等ラウドネス曲線(1)(新規格 国際規格ISO226:2003)

 等ラウドネス曲線は,周波数に対し音の大きさを等しく感じる音圧レベルを結んだ曲線です。図ー1の等ラウドネス曲線を見ると、1000Hz以上の周波数では、音圧による聴覚の特性の差はあまり見られませんが、1000Hz以下では、音圧が低下すると、周波数が低くなるほど聴き取りにくくなるという特性になっています。
 この等ラウドネス曲線を元に、周波数特性を見やすくするために、90phonの等ラウドネス曲線を基準にし音圧を変化させたときの90phonの等ラウドネス曲線との差異をグラフにしたものを図ー2に示します。4kHz以上は90phonのデータがないので80phonの値を基準としています。
 50phonの場合、16Hzでは1kHzに対し20dBの聴覚の低下がみられます。したがって90phoneから50phoneに音圧が変化すると、20db程度低音を持ち上げる補正が必要ということになります。1k~8kHzの範囲では90phonから50phonの間で差異は2dB程度です。16kHzにおいて50phonでは80phonに対し5dBの聴覚の低下がみられますが60phonでは2dB程度の低下です。

等ラウドネス曲線変形
図-2 90phonの等ラウドネス曲線に対する各音圧での差異
(4kHz以上は80phonの値に対する差異)

ラウドネスコントロール

 オーディオシステムで、聴取するときにボリュームで音量を絞ると、低域と高域の両方が削がれると思っていましが、高域では気にするほどではないようです。低域は図ー2に示したように削がれることになります。90phonで気持ちよく聞いていた曲を、音量を80phonに絞って聞くと16Hzで5dB音圧が低下します。これを補正する仕組みをラウドネスコントロールと言っています。ここでは、この補正量を検討します。

リスニングポイントでの最大音量

 オーケストラの迫力を楽しむために音量を最大にして音楽に没頭するというような場合のアンプからスピーカへの最大出力を測定ました。
  リスニングポイントでの音圧は最大で、およそ90dBでした。詳細は、下記リンクを参照ください。

 いま聴いている音楽の音圧は何dB? - スピーカーが必要とするアンプの出力 -

 

リスニングポイントでの音量調整

 図ー3にボリュームの特性を示します。音量調整はA特性のボリュームの回転角度で90度、図ー3の横軸では、35~65%の範囲で行っています。抵抗値では10~25%となります。25%のときが最大音圧90dBですので、10%のときは減衰量が
 20log(25/10)=8.0 (dB)
多めにみて10dBとなります。

ボリュームコントロール
図ー3 ボリュームの特性 アルプス電気カタログ(2)から転載

生演奏の音圧

 ホールでのオーケストラの演奏時の音圧は、発表されている値(3)(4)(5)をまとめると、おおよそ次のようになります。
 ホール最前列:100~110dB  ホール中央付近:90~100dB

ラウドネスコントロールでの補正量

 ホール中央付近の音圧よりやや小さい90phonで気持ちよく聞いている曲を、ラウドネスコントロールの項で示したように音量を80phonまで絞ると低域が16Hzで5dB削がれることになります。ホール中央付近の音圧100phonを基準にすると、16Hzで10dB削がれることになります。
 高域に着目すると、16kHzにおいて50phonでは80phon(4kHz以上での基準)に対し5dBの聴覚の低下がありますが、60phon以上では1kHz以上の高域で90phonまたは80phonの基準に対し差異は2dB以下です。60phonの音圧は音楽鑑賞としては相当に低い値であると考えられるので、高域の補正の必要性は低いと思います。
 補正は、CD等の録音媒体が製作されるときに想定されている再生時の音圧や、音量の調整範囲を元に検討する必要があるので一概には言えませんが、ここでの結論として補正量としては、16Hzに対し10dB程度必要と考えます。またこの等ラウドネス曲線に関しては高域の補正は不要と考えます。もちろん、音量をさらに絞る場合は補正量も大きくする必要があります。


加齢による聴覚の変化と補正


加齢による可聴値の変化

 年齢を重ねると高い周波数が聴き散りにくくなるといわれています。図-4に加齢よる平均的な可聴値の変化を示します(6)。
加齢により低域においても可聴値の音圧は増加しますが、各年齢における周波数に対する可聴値の変化を確かめるために、各年齢における125Hzでの値を0dBとして各周波数での125Hzとの差異を示します。
 加齢により高域では加速度的に可聴値が大きくなります。15-19歳の周波数特性を基準にすると、60-64歳では8kHzの可聴値が125Hzの値に対し25dB程度大きくなっています。

加齢による可聴値の変化
図ー4 加齢による可聴値の周波数特性の変化
(立木孝他、日本人聴力の加齢変化の研究(6)に改変を加える)

加齢に対する補正

 前項の図ー4は、可聴値での加齢による聴覚の特性の変化を示すもので、そのまま音圧の高い場合にあてはめることはできませんが、音楽鑑賞時の音圧レベル(80~90dB)におけるデータを見いだせないので、ここでは取り合えず、15-19歳に比べ高域(8kHz)での聴覚は、60-64歳では25dB、50-54歳では12dB、40-44歳では8dBの差があるとみなします。加齢に対する補正としては、低域に対しては必要性は低く、高域に対しては8kHzで25dB以上必要ということになります。
 通常トーンコントロールでの補正量は、20kHzで最大20dB程度で、60-64歳での8kHzで25dBというのは相当大きい値です。年齢による聴覚の差が大きいことは納得できますが、それぞれの年齢で生活しているのであって、日頃聞いている音が心地良いのであれば、10代に聞いていた音にまで補正することは必要ないように思います。実際トーンコントロールで最大値の20dB程度まで補正する場合は少ないように思われます。適正な補正量は一概には言えないという結論です。


トーンコントロール


トーンコントロールの必要性

 聴覚の周波数特性を等ラウドネス曲線と加齢による変化という点で検討してきました。等ラウドネス曲線に対しては、聴取時の音量の10dBの低減に対し、低域(16Hz)を5dB補正すると各楽器の音量のバランスが保てると考えます。加齢に対しては、高域を補正することになりますが、補正量を決める明確な根拠は見出せませんでした。
 しかし加齢により高域の聴覚が大きく低下することは明確なので、高域を補正することで聴覚の衰えをある程度補うことにより気持ち良く聞くことができると思います。
 40歳になったら高域の補正を始めてもいいのではないでしょうか。補正量は、結局、その時の感性で決めることになりますが、高域の補正量を大きくしていくと、聴覚という点では若返っていき、10代の感性に戻ることも可能かもしれません。

トーンコントロールの特性

 図ー5はコントロールアンプの代表的なトーンコントロール特性です。調整範囲は、最大のもので±20dB程度だと思います。低域は、ラウドネスコントロールに、高域は、加齢による聴覚の変化に見合っており、オーディオシステムのトーンコントロールを調整することにより、それぞれの補正ができると思います。

ボリュームコントロール
図ー5 トーンコントロールの特性

トーンコントロールの調整法

 音楽に没頭するような聴き方をする場合、音圧のピークが90~80phon程度と大きな値で聴いていますで、低域の補正は行っていません。高域の補正は必要と感じていますが、私の感性では楽器の音で高域の補正量を決めるのはむつかしい。
 トーンコントロールの高域の補正は一般に1000Hz以上の領域です。合唱曲の1000Hz以上というのは、アルトとソプラノの高い音域に相当すると思われるので、合唱曲で女性コーラスがバランスよく聴こえてくるようにトーンコントロールの高域の補正量を調整しています。


調整にお勧めのレコード
 ヘンデル作曲 メサイア
 カール・リヒター指揮
  ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
  ジョン・オールディス合唱団
 オーケストラと合唱団の掛け合いが絶妙です。古い録音ですがCDも出ています。