眼前に広がる舞台を楽しむスピーカーの対向セッティングのすすめ

 スピーカーは、リスナーに向けるのが一般的ですが、リスナーに向けるのではなく左右のスピーカーを互いに向き合わせると、音像に近づくことができ眼前の舞台に広がるオーケストラを感じるこができるように思います。スピーカーを向き合わせるので対向セッティングと呼ぶことにします。対向セッティングについて考えたいと思います。

スピーカー
スピーカーの対向セッティング

2021年5月掲載

 文章を一部訂正 2021年5月20日


基本的なスピーカーの配置


基本的な正三角形の配置

 スピーカーのセッティングには色々な方法があるようですが(3)(4)、リスナーと左右のスピーカーで正三角形を構成する配置が基本的なセッティングだと思います。スピーカーの中心軸に対しリスナーの方向は30°ずれていることになります。部屋が広ければいいのですが、壁が近くにあると壁面からの反射の悪影響がでてきます。


壁面による鏡像の影響


 スピーカーを壁面に近づけると、壁面が音に対する鏡になり、壁の向こうに鏡像としてスピーカーが現れると考えられます(1)(2)(3)。鏡像スピーカーはかなり崩れたスピーカだとは思います。実体のスピーカと鏡像スピーカーにより音像がピンボケになる等の影響が出ると思われます。

鏡像スピーカー

 壁面からの反射の影響を低減するために、スピーカーは壁面から少し離して設置するのが、一般的です。鏡像スピーカーが遠ざかるのでその影響が低減します。しかし、左右のスピーカーの間隔が狭くなり、音像も小さくまとまってしまいます。舞台に広がったオーケストラを感じるためには、スピーカーの間隔を壁面いっぱいまで広げたいものです。

左右スピーカーの間隔を狭める

スピーカーの内振


 左右のスピーカーを少し内側に振ると、鏡像スピーカーは外を向くことになり、壁面の反射の影響は低減されます。このセッティングで使用していましたが、聴取位置で、例えば頭を左に動かすと音像が大きく左に移動します。音像が左右に移動すると、どうしてもゆったりとした気持ちで聴けません。

左右スピーカーの内振り

スピーカーのクロスセッティング


 スピーカーを大きく内側に振り左右のスピーカーの中心軸を聴取位置の手前で交差させます。この交差するポイントより後ろで聴くと、頭を左右に動かしたときの音像の移動量が小さくなるように感じました。中心軸を交差させるので、これをクロスセッティングと呼ぶことにします。この状態で1年以上聴いていました。クロスセッティングについては、別にまとめています。

スピーカーのクロスセッティング

スピーカーの対向セッティング


 クロスセッティングの位置からさらに内側に振ります。スピーカーの中心軸のリスナーからのずれθを小さく保ったまま、音像に近づくことができます。

スピーカーを大きく内側に振ると音像に近づける

 さらに内側に振ると左右のスピーカーが向き合います。スピーカーの中心軸のリスナーからのずれθが30°になるようにセッティングすると次の図のようになります。リスナーから見て左右のスピーカーの方向が120°と大きく開いています。基本的な正三角形の配置の場合もスピーカーの中心軸は、リスナーの方向と30°ずれていました。同じ30°のずれですが、対向セッティングにすると壁面の反射の影響は低減でき、眼前に広がるオーケストラの演奏を指揮台にいるように感じます。

指揮台にいるように感じる対向セッティング

 スピーカーを対向位置から少しリスナーの方向に向けると、コンサートホールの後方に移動する感覚になります。今は7.5畳の部屋で次の図のように配置しています。コンサートホール最前列で聴いているような舞台の広がりを感じ、大変気にいっています。

最前列にいるように感じる対向セッティング

後記


 スピーカーの対向セッティングは、音像に近づけるというのが最大の魅力だと思います。聴覚はほとんど指向性がないようで、横から来る音にも違和感はなく定位も明瞭だと思います。
 正面にあったスピーカーは視野の隅に控えることになります。また、音は正面から聞こえてくるのにスピーカーは横を向いているので、スピーカーから出ている音とは感じにくく、スピーカーの存在感が薄まりその分臨場感が増すように感じます。スピーカーを向き合わせてセッティングし、そこからリスナーの方に少しづつ向けていくと、コンサートホールの気に入った座席を選べます。


参考文献


(1)伊藤 毅 音響工学原論(上巻)昭和30年4月30日 コロナ社 昭和30年4月30日 
(2)伊藤 毅 音響工学原論(下巻)昭和32年5月15日 コロナ社 昭和32年5月15日
(3)石井伸一郎、高橋賢一 改訂増補 リスニングルームの音響学 誠文堂新光社 2014年8月20日
(4)佐伯多門 新版スピーカー&エンクロジャー百科 誠文堂新光社 2008年2月6日