音像が安定するスピーカーのクロスセッティングのすすめ 新版

 スピーカーを少し内側に振りリスナーに向けることは、よく行われていると思います。大きく内側に振り左右のスピーカーの中心軸をリスナーの手前で交差させると、リスナーが左右に移動しても音像は移動せず安定し、自然な感覚になります。左右のスピーカーの中心軸を交差させるので、クロスセッティングと呼ぶことにします。クロスセッティングについて考えたいと思います。

スピーカー
スピーカーのクロスセッティング

 関連記事ー眼前に広がる舞台を楽しむスピーカーの対向セッティングのすすめ


2023年9月新版掲載

 旧版はこちらー音像が安定するスピーカーのクロスセッティングのすすめ


基本的なスピーカーの配置


基本的な正三角形の配置

 スピーカーのセッティングには色々な方法があるようですが(3)(4)、リスナーと左右のスピーカーで正三角形を構成する配置が基本的なセッティングだと思います。スピーカーの中心軸に対しリスナーの方向は30°ずれていることになります。部屋が広ければいいのですが、壁が近くにあると壁面からの反射の悪影響がでてきます。


壁面による鏡像の影響


 スピーカーを壁面に近づけると、壁面が音に対する鏡になり、壁の向こうに鏡像としてスピーカーが現れると考えられます(1)(2)(3)。鏡像スピーカーはかなり崩れたスピーカだとは思います。実体のスピーカと鏡像スピーカーにより音像がピンボケになる等の影響が出ると思われます。

鏡像スピーカー

 壁面からの反射の影響を低減するために、スピーカーは壁面から少し離して設置するのが一般的です。鏡像スピーカーが遠ざかるのでその影響が低減します。しかし、左右のスピーカーの間隔が狭くなり、音像も小さくまとまってしまいます。舞台に広がったオーケストラを感じるためには、スピーカーの間隔を壁面いっぱいまで広げたいものです。

左右スピーカーの間隔を狭める

スピーカーの内振り


 左右のスピーカーを少し内側に振ると、鏡像スピーカーは外を向くことになり、壁面の反射の影響は低減されます。このセッティングで使用していましたが、聴取位置で、例えば頭を左に動かすと音像が大きく左に移動します。音像が左右に移動すると、どうしてもゆったりとした気持ちで聴けません。

左右スピーカーの内振り

スピーカーのクロスセッティング


 スピーカーを大きく内側に振り左右のスピーカーの中心軸を聴取位置の手前で交差させます。この交差するポイントより後ろで聴くと、頭を左右に動かしたときの音像の移動量が小さくなるように感じました。中心軸を交差させるので、これをクロスセッティングと呼ぶことにします。

クロスセッティング

スピーカーの指向特性


 一般的なコーン型スピーカーは中心軸上で音圧が最も大きく、中心軸からずれるほど音圧は低下します。次に指向特性の事例を示します。

 日立Lo-D HS-500の指向特性です(カタログより抜粋)。5000Hz 30°では約3dBの低下となっています。

 JVCのSX-XD303のカタログに記載されている比較のためのJVCの通常のフルレンジスピーカーの指向特性です。6kHz~10kHzの範囲で、30°では、10~20%の低下となっています。


スピーカーのクロスセッティングの効果


スピーカーの中心軸が聴取位置の手前でクロスしない場合

基本的な配置。内振り

 左右のスピーカーの中心軸が平行で交差しないか、聴取位置の背後で交差する場合の右側スピーカーの出力を検討します。聴取位置を例えば中央から右に移動すると右スピーカーからの距離はL1からL2に小さくなり、右スピーカーからの音圧は大きくなります。一方、右スピーカーの中心軸からの角度もθ1からθ2に小さくなり、指向特性から右スピーカらの音圧が大きくなります。距離と角度の変化が相まって右スピーカーの音圧が大きくなります。
 左スピーカーは、逆に距離と角度が相まって音圧が小さくなります。したがって音像が右に移動することになります。

スピーカーの中心軸が聴取位置の手前でクロスする場合

クロスセッティング

 左右のスピーカーの中心軸が聴取位置の手前で交差する場合の右側スピーカーの出力を検討します。聴取位置を例えば中央から右に移動すると右スピーカーからの距離はL1からL2に小さくなり、右スピーカーからの音圧は大きくなります。一方、右スピーカーの中心軸からの角度はθ1からθ2に大きくなり、指向特性から右スピーカらの音圧が小さくなります。距離と角度の変化が打消し合って右スピーカーの音圧の変化が小さくなります。左スピーカーも同様に、距離と角度の変化の影響が打ち消しあって音圧の変化が小さくなります。
 このように、左右のスピーカーの中心軸の交点より後方では、聴取位置を左右に移動しても音像があまり移動せず、音像の中心は左右のスピーカーの中央で安定することになります。


音圧の測定

 部屋は、幅2.7m、奥行き4.5m、高さ2.4mの一般的な7.5畳の洋室です。スピーカーは、インフィニティ Kappa 8.2iを下の図のように配置します。

基本的な配置

 リスナーと左右のスピーカーで正三角形を作る基本的な配置とし、ホワイトノイズを再生します。聴取位置を左右に移動した場合の右スピーカからの音圧を測定しました。携帯の騒音計アプリを使用しており、精度は不明ですが参考にはなると思います。

クロスセッティング

 スピーカーを大きく内側に振り中心軸を聴取位置の手前でクロスさせます。上の図は我が家での配置で、60°内側に振ってホワイトノイズを再生します。「基本的な配置」の場合とはアンプの出力が異なります。すると、聴取位置を左右に移動しても音圧はほとんど変化せずに、音像も移動しなくなります。


スピーカーのクロスセッティングのすすめ


 左右のスピーカーを大きく内側に振り中心軸を聴取位置の手前でクロスさせると、聴取位置を左右に移動しても音像があまり動かない自然な感覚が得られます。また、内振りによって壁面による鏡像の影響が小さくなり音像がシャープになるように思います。
 音楽を聴くといっても、聴取位置で座ってじっとしているとは限らず、ある程度は動くと思います。2人で並んで聴く場合もあるでしょう。左右に動いても音像があまり移動しないクロスセッティングが気に入っています。


参考文献


(1)伊藤 毅 音響工学原論(上巻) コロナ社 昭和30年4月30日
(2)伊藤 毅 音響工学原論(下巻) コロナ社 昭和32年5月15日
(3)石井伸一郎、高橋賢一 改訂増補 リスニングルームの音響学 誠文堂新光社 2014年8月20日
(4)佐伯多門 新版スピーカー&エンクロジャー百科 誠文堂新光社 2008年2月6日