“アンプに必要な出力の検討"で、我が家で使用時のアンプの最大出力は2Wですが、設計出力(クリップ寸前のひずみ率5%の値)は4Wはほしく10Wあれば理想的としました。今回は、電子楽器用なので用途は異なりますが、使用環境は似ているので設計出力の目標はそのままとします。
電子楽器用なので移動を考慮しMT管の中から6BQ5を選びました。6BQ5規格表(1)から、本来の5極管としてはAB1級で17Wの出力が可能で、3極管接続としてもAB1級で使用すると5.2Wの出力が得られます。
上杉佳郎氏は「ノンNFB型パワーアンプの魅力はおおらかでのびのびとしたサウンドにある」と述べておられます(2)。ここでも、5極管を負帰還(NFB)をせずに使用しますが、負帰還をせずに5極管を使用すると内部インピーダンスが大きい等の5極管の欠点が目立ちます。3極管接続とすることにより、内部インピーダンスを小さくしダンピングファクターを確保できます。また、3極管の美しい特性を得られます(2)(3)。
出力トランスのインピーダンスを10kΩとし、動作点をTUNG-SOLの規格表に示されたプレート電圧300V、プレート電流24mAとして1/2(6kΩ)と1/4 (3kΩ)ロードラインを下の図に示します(4)。出力は、プッシュプル出力回路の直列等価回路よりA級動作では
(24mA/√2)2×10kΩ=2.9W
AB1級での設計出力は
((170V×2)/√2)2/10kΩ=5.8W
となり、設計出力4W以上が達成でき、実際に使用する最大出力と考えている2WはA級動作範囲に入ります。
TUNG-SOL規格表より必要なグリッド側の信号電圧を計算します。カソード抵抗が270Ωでプレート電流が2x24mAなのでバイアス電圧は
270(Ω)X(2X24)(mA)=13(V)
実効値に換算すると
13÷√2=9.2 (Vrms)
となり、設計出力5.8Wを得るためには9.2Vrmsの入力が必要となります。
入力は電子楽器のLINEOUT出力です。汎用性を持たせるためにJEITA規格CP-1203「AV機器の電気的接続要件」に従うと、入力1Vrmsで定格出力を得る必要があります。定格出力を設計出力5.8Wとすると、ドライブ回路に9.2倍およそ20dBのゲインが必要になります。
位相反転には、“6922ドライバーアンプ”"で記載したように、幾つかの方法があります(5)。ここでは、カソード結合形といわれている方法を採用します。位相反転回路で20dBのゲインが確保できるので、ドライバー回路を1段で構成できます。ただ、上側と下側で増幅度が変わるので、負荷抵抗の値を変えて調整する必要があります。
カソード結合形には幾つかの種類があり、ムラード形(“6922ドライバーアンプ”"で記載回路例)やQUADⅡで使用されている回路があます。ここでは古典的な下の図の回路を使用します。
Rp1=Rp2、Rg1=Rg2とするとバランスの狂いmは
m=(rp+Ra)/{(1+μ)(Rc+Rk)}
となります。ここでRaはRp1とRg1の並列合成値すなわちV1の交流負荷抵抗です。Rp2の値を少し大きくして調整する必要があります。参考文献(4)(5)(6)に詳しく述べられています。具体的な数値は、中林歩氏の値(4)を参考にしています。
手持ちの電源トランス(SANSUI P-44B)を使用します。B電源用には、380V(CT)と280V(CT)の端子がありますが、380V端子を使用します。
カソード結合形ではカソード抵抗(回路図R3)をある程度大きくする必要があります。そのためにカソード電位が高くなり、B電源の電圧を高くする必要が出てきます。
電源トランス(SANSUI P-44B)にはヒーター電源用の端子として、5V3Aが1個と6.3V3Aが2個あります。6BQ5のヒーター電流は760mAなので、6.3V3Aの2個の端子にそれぞれ2本のヒーターを接続しAC点火とします。5V3Aの端子は、倍電圧整流をし、DC6.3Vの出力を12AU7 2本のヒーターに接続します。
持ち運びを考慮して全体を箱形にしました。正面と底板以外にはパンチングメタルを使用して温度上昇を抑えています。
素直な音です。6BQ5の3極管接続のプッシュプル出力で、実際に使用しているのはA級動作の範囲です。負帰還は使用せずシンプルな構成です。6BQ5はオーディオ出力管としては小形で、アンプとしてもコンパクト(300x220x150(mm))に収まりましたが出力も充分です。6BQ5の良さを再発見しました。傍熱管なので交流点火としましたが、耳をスピーカーに近づけてもハムはほとんど聞こえず問題はないようです。