6922ドライバーアンプの制作

 パワーアンプのドライバー回路を分離したドライバーアンプを制作します。単段構成のパワーアンプと平衡伝送路で接続し、コントロールアンプの近くに置く予定です。コントロールアンプの出力回路、送り出しアンプともいえると思います。0.7Wの小出力ですが色んな使い方ができそうです。

6922ドライバーアンプ
自作6922ドライバーアンプ

2021年6月掲載


コントロールアンプとパワーアンプ


 コントロールアンプとパワーアンプの構成は、次の図のようになっているものが多いようです。接続はRCAコネクタを使った不平衡の伝送です。図のようにアンプを組み合わせると、どうしてもゲインが大きすぎてボリュームで目いっぱい絞って使うことになりがちです。増幅段数を減らしてシンプルな構成にしたいものです。

6922テーブル
よくあるコントロールアンプとパワーアンプ

 前作の3a5真空管コントロールアンプでは、コントロールアンプの出力回路がパワーアンプのドライブ回路を兼ねて、“UV-211送信管パワーアンプ"は単段構成になっています。接続は、600Ω平衡伝送路です。

 今回は、コントロールアンプの出力回路と、パワーアンプのドライブ回路を兼ねた回路を、ドライバーアンプとして分離しコントロールアンプの近くに設置する予定です。接続は平衡伝送路ですが、ドライバーアンプの出力は600Ωのライントランスではなく、16Ωの出力トランスとして汎用性を持たせたいと思います。

6922テーブル
今回のドライバーアンプ

出力管の選択


 ある程度出力があり増幅率も欲しいという欲張った条件です。前作の3a5真空管コントロールアンプでは、出力回路は3A5のパラシングルとしたので、今回はプッシュプルを試してみます。出力トランスは定評のあるKA-14-54P(14kΩ:16Ω 春日無線)を予定しています(2)。そうすると出力管の内部インピーダンスはかなり低い必要があり、6922(6DJ8)、6350、5687を候補としました。増幅率を優先して6922を選択します。

6922テーブル
候補の真空管比較 真空管規格表(1)抜粋
6DJ8真空管
6922(electro-harmonix)左と6DJ8(Sylvania)右

ロードラインの検討


なので、

A1級プッシュプル動作

 出力トランスは、定評のある春日無線のKA-14-54P、1次14kΩ、2次4,8,16Ωを使う予定です(2)。動作ポイントを 130V 10mA とします。A級プッシュプルなので1/2ロードラインとして7kΩのラインを引くと、次の図のようになります。設計出力(クリップ寸前のひずみ率5%の出力)は、(0.01/√2)2x14000=0.7(W)となります。

6922ロードライン
6922特性曲線(PHILIPS E88CC (1)とロードライン 

トランス結合の単段アンプ


位相反転方式(3)(4)

位相反転回路の例1
位相反転回路の例1

 位相反転回路としては、PK分割回路がよく使われていますが、下側の回路はカソードフォロアーでゲインはありません。回路が一段増えることになります。カソード結合形にするとゲインはありますが、上側と下側のバランスの調整が必要になりそうです。

位相反転回路の例2
位相反転回路の例2

 カソード結合形の発展形に差動増幅回路を使用する方法があります。カソード結合形の問題は解消されますが、定電流回路の素子により真空管が抑えられているようで真空管にとっては面白くないと思います。

位相反転回路の例3
位相反転回路の例3

 トランスによる位相反転は、最もシンプルに構成できると考えています。位相反転のための増幅回路が不要で1段の増幅回路でプッシュプル回路が構成できるのが、シンプルな構成には打って付けです。

位相反転回路の例4
位相反転回路の例4

 今回は、入手できたラインアウトトランスであるTD-2(10kΩ:600Ω 日本光電製)の1次側を単巻トランスとして代用します。このトランスは最大出力が13dBm(1Vrms)なのでこのドライバーアンプの出力トランスとしては不足します。

TD-2の周波数特性の確認

 TD-2の一次側は、2.5kΩの巻き線が2組のスプリットです。片側の巻き線のインダクタンスを測定したところ、750Hでした。TD-2の入力側にボリュームを設ける予定です。前段の出力インピーダンスを10kΩとしボリュームを100kΩとすると、ボリュームの値が合計の110kΩの1/2、55kΩのときTD-2の周波数特性への影響が最大になります。
 シュミレーションソフトLTspiceでの周波数特性の計算結果は下図の通りで問題はないようです。

TD-2
TD-2 単巻トランスとしての周波数特性

16Ω出力トランスによる平衡伝送路


トランス結合と平衡伝送

 コントロールアンプとパワーアンプの接続ケーブルは、どうしても長くなりがちです。トランス結合にすると、増幅回路間が完全に絶縁でき容易に平衡伝送路を実現でき、伝送路のインピーダンスも低くできます。低インピーダンスの平衡伝送により、ノイズの影響を小さくでき、高域の減衰も気にならなくなります。

 詳細は、3a5真空管コントロールアンプにまとめて記載しています。平衡伝送路の例を次に示します。

平衡伝送路の例
平衡伝送路の例

 平衡伝送路のインピーダンスは、600Ωが使われてきました。前作3a5真空管コントロールアンプでも600Ω出力としましたが、今回は汎用の16Ωの出力トランスを使用する予定です。平衡伝送路は、次の4案から適宜選びたいと思います。

16Ω平衡伝送路 A案

 受け側のパワーアンプの入力トランスとしては、汎用の16Ωの出力トランスを一次、二次を逆に使用します。上の図に示した600Ω平衡伝送路のゲインは √(50/10)=2.2(倍) 7(dB) となりますが、下図の16Ω平衡伝送路 A案の場合はゲインはありません。
 UV-211パワーアンプの場合、実際の使用時の最大出力が2Wで14kΩ側の信号は12.3Vとなるので、各トランスの出力は 12.32/14000=0.011(W) となりこのアンプに適した範囲だと思います。

 
平衡伝送路の例
平衡伝送路 A案

16Ω-600Ω平衡伝送路 B案

 インピーダンスのマッチングは行わず、入力600Ωのトランスに接続します。出力LOW-入力HIGHTの接続となります。この場合ゲインのロスが √(16/600)=0.16(倍) -16(dB) となります。
 UV-211パワーアンプと接続する場合、実際の使用時の最大出力が2Wで600Ω側の信号はで1.2Vとなるので送り出し側の出力は 1.22/16=0.09(W) となり、出力は、このアンプに適した値の範囲入っていると思います。

平衡伝送路の例
16Ω-600Ω平衡伝送路 B案

16Ωー150Ω平衡伝送路 C案

 パワーアンプの入力トランス(ノグチ FM-600-50kCT)には、一次巻き線にセンタータップがあるのでここに接続します。この場合ゲインのロスが √(16/150)=0.32(倍) -10(dB) となり、B案よりゲインロスは小さくなります。
 UV-211パワーアンプと接続する場合、B案に比べ送り出し側の出力は1/4(W)になります。

平衡伝送路の例
16Ω-150Ω平衡伝送路 C案

16Ω-600Ω平衡伝送路 D案

 マッチングトランスとして春日無線 KA-1280(1.2k-600Ω:16Ω)を使用し、インピーダンスのマッチングを行ないます。UV-211パワーアンプと接続する場合、各トランスの出力は、0.0024(W)となります。信号レベルが小さすぎてひずみ率が悪くなるかもしれません。

平衡伝送路の例
16Ω-600Ω平衡伝送路 D案

回路図


出力インピーダンス

 相手機器とトランスによるインピーダンスのマッチングを行わないときは、平衡伝送路B案のように出力トランスの2次巻き線にR4(16Ω)を並列に接続します。16Ωのローインピーダンス出力となり、ハイインピーダンスの機器と接続できます。

平衡出力コネクター

 接続には ITTCANNONのXLRコネクターを採用しました。プロオーディオで使用されているものです。

XLRコネクタ
XLRコネクタ(左が入力、右が出力)

B電源回路

 手持ちのトランスを使いたかったので少しオーバースペックです。電源トランスにヒータ用に使える巻き線がないので、手持ちのヒータートランスをシャーシ内部に取り付けました。整流には、ダイオードの逆電流を低減できるショットキーバリアダイオーを使用します。さらに平滑用コンデンサへのリップル電流を抑制するために、トランスと整流器の間に850Ωの抵抗R11を設置しています。詳細は“電源整流回路におけるリップル電流の低減方法”"を参照ください。

ヒーター電圧

 トランスのヒータ用出力電圧は、10Vと高くしています。電圧を高めに設定することにより、B電源回路と同じようにトランスとダイオードの間にリップル電流低減抵抗を設けることができ、また容易に平滑性を良くできます。
 一方の真空管のヒータが断線した場合に他方のヒータが過電圧になり続けて断線しないように、平滑回路を左右の真空管に別々に用意しています
 フィラメントの寿命は電圧による影響が大きいといわれており、電圧を少し下げると長寿命化が期待できそうです。電球の寿命に関して多くの報告があります(5)(6)。
 ヒータに印加する電圧は、定格の6.3Vではなく少し低めの6V程度にして長寿命化を狙っています。真空管が使われていた時代の電源事情を考えると±10%程度の電圧変動には問題なく対応できると思っています。

回路図
回路図

天井のある構造


天井

 一般的な真空管アンプはシャーシの上に部品を並べ、天井は設けない構造になっています。天井があるとラックがなくても上に積むことができ、ひっくり返してメンテナンスする際も便利です。また、ごみが積もりにくいので天井は設けるようにしています。
 幅305mm、奥行き205mm、高さ165mmの少し小柄なアンプです。

自作6922amp
自作6922ドライバーアンプ
天井を外した状態
天井を外した状態

内部の構造

 ヒータトランスは、シャーシ内に取り付けています。電源回路と増幅回路の間はアルミ板でシールドしています。単段のアンプなのでシンプルな構造です。

内部
内部

後記


 動作の確認に16Ω-600Ω平衡伝送路 B案でコントロールアンプと、600Ω入力のパワーアンプの間に接続しました。真空管1本とトランスが2個が余分に介在することになりますが、このアンプの存在を感じませんでした。トランス結合の無帰還真空管アンプの良さを再認識しました。色々な接続を試していこうと思います。


参考文献


(1)真空管(Electron tube) 規格表データベース https://tubedata.jp/ 2020-8-10閲覧
(2)木村 哲  6DJ8全段差動PPミニワッター&ヘッドホンアンプ 14kΩ負荷への改造 http://www.op316.com/tubes/mw/mw-6dj8pp-14k.htm 2021-4-5 閲覧
(3)百瀬了介 ハイファイアンプの設計 1970-1-30 ラジオ技術社
(4)長 真弓 真空管アンプ設計製作自在 全面改訂版 2009-2-1 誠文堂新光社
(5)石﨑 有義 白熱電球の技術の系統化調査  国立科学博物館 北九州産業技術保存継承センター技術の系統化調査報告共同研究編 第4集 2011-3-31 http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/070.pdf 2020-8-19閲覧
(6)ウシオ電機ホームページ ハロゲン電球の基礎 光技術情報誌「ライトエッジ」No.22 2001年9月 https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200109/100260.html 2020年8月19日閲覧