UV-211送信管パワーアンプの制作

 出力管には、一度は挑戦したいと思っていた送信管UV-211を使用することにします。プレートには1kVを印加するのでちょっと覚悟が必要です。NFBを使用しない素朴な回路にしようと思います。

UV-211送信管パワーアンプ
自作UV-211送信管パワーアンプ

2019年10月掲載

2020年8月更新

 2017年8月に制作して、3年間使用してきましたが、トランスとヒータ電源のブリッジダイオードの発熱が気になっていました。思い切って改造することにしました。併せて項目の追加など全体の見直しもしました。 

2020年9月更新

 UV-211とトランスの間に遮熱板を設け、UV-211からの輻射熱を遮蔽しました。


設計出力の設定と出力管の選択


 “アンプに必要な出力の検討"で、アンプを実際に使用している時の最大出力は2W、設計出力(クリップ寸前のひずみ率5%の値)は10Wあれば理想的としました。ここでは、この設計出力10Wを実現する方法を検討します。

 設計出力10W程度というと、PPアンプでは、オーディオ用として定評のある2A3、EL-34等候補はたくさんあります。またシングルアンプでは、WE-300Bで8W、KT88/6550で15W、UVー211で15W、UV-845で20W程度と比較的大型のものが選択肢となります。ここでは、一度は挑戦してみたいと思っていた、力強い臨場感のある音(1)、透明感のある音(2)(3)等評価の高い送信用直熱管UV-211によるシングルアンプを制作することにします。

UV-211送信管
UV-211真空管(GE製)

ロードラインの検討


A1級シングル

 出力トランスは、古いアンプから外したタンゴFW-150-10SRを使用します。1次10kΩ、2次4,8,16Ωです。使用するスピーカー(インフィニティーkappa 8.2i)のインピーダンスが6Ωなので、出力トランスの8Ω端子を使用します。従って1次インピーダンスは
 10 x 6 / 8 = 7.5 (kΩ)
となります。UV-211はA2級としてグリッドのプラス領域を使用することもできますが、今回はA1級としてグリッドに電流を流さない領域で使用します。動作ポイントを 900V 60mA とすると、ロードラインは次の図のようになります。出力は、
 (400/√2)2/7500=10.7(W)
となり目標の設計出力10Wを達成できます。

UV-211送信管ロードライン
RCA 211 特性曲線(5)とロードライン 

トランス結合の単段アンプ


トランス結合と平衡伝送

 コントロールアンプとパワーアンプの接続ケーブルは、どうしても長くなりがちです。私が音楽を聴いている7.5畳の部屋でも、壁に沿ってケーブルを這わせると10m近くになります。増幅回路間は、いわゆる出力側LOWインピーダンス/入力側HIGHインピーダンスのコンデンサ結合方式が一般的ですが、コンデンサ結合では片側が接地電位となり伝送路が不平衡となりノイズの影響を受けやすくなります。またNFBを使わないノンNFBで素朴な構成にしたいと思っていますが、そうするとコントロールアンプの出力インピーダンスを低くできず浮遊容量による高域の減衰も気になります。
 トランス結合にすると、増幅回路間が完全に絶縁でき容易に平衡伝送路を実現でき、伝送路のインピーダンスも低くできます。低インピーダンスの平衡伝送により、ノイズの影響を小さくでき、高域の減衰も気にならなくなります。またトランスによる音質向上の効果も期待できそうです(2)(5)。

 3a5真空管コントロールアンプとの、平衡伝送路の例を次に示します。

平衡伝送路の例
平衡伝送路の例

ドライブ方式

 211の出力トランスの一次側インピーダンスを7.5kΩとすると10Wの出力に対し出力電圧は
  出力電圧 Vout=√(出力トランス一次側インピーダンス×出力)=√(7.5kΩ×10W)=274V
となります。増幅率を10とすると、グリッド側で27.4Vとなります。
 巻数比の大きな入力トランスとして、ノグチトランスの600Ω:50kΩの入力トランスを使用すると、トランスの入力電圧は2.7Vとなります。600Ω、2.7Vの信号は、パワーアンプに出力管のドライブ用増幅回路を設けなくても、前段のコントロールアンプで出力が可能です。トランス結合の単段構成のアンプとしたいと思います。

 コントロールアンプに要求される出力は、パワーアンプの設計出力10Wに対しては2.7V(600Ω)、実際に使用している時の最大出力2Wに対しては
  2.7/√(2/10)≒1.2(V)
となります。これらの値は”JEITA CP-1203A AV機器のアナログ信号の接続要件”で示された パワーアンプ(ボリューム無し)は、”基準動作入力レベル 1V”で定格出力が得られ、プリアンプの”基準動作出力レベル 1V、最大出力レベル 3V以上” という規定に見合った値です(6)。

構成図
出力2W(実使用時の最大出力)のときの各部の電圧
(出力10W(設計出力)のとき電圧は2.2倍)

回路図


入力トランス

 入力トランスは、他のパワーアンプにも共用したいので別ユニットに分けました。

スピーカー端子

 一般にスピーカー端子は、左右それぞれに 0,4,8,16Ωと4個の端子があります。これに左右4本のスピーカーへのケーブルを接続するのは、メンテナンス時に結構厄介です。プロオーディオで使用されている ノイトリックのスピコンspeakONを採用しました。4極のものに左右4本のケーブルを接続すると結線ミスも防げて便利です。

ノイトリックのスピコンspeakON
ノイトリックのスピコンspeakON

B電源回路

 プレート電圧が900Vと高く、対応できるショットキーバリアダイオーは入手できないようです。起動時の遅延用として整流管を使用し、平滑用コンデンサへのリップル電流の抑制、ダイオードの逆電流の防止の効果も狙っています。さらに平滑用コンデンサへのリップル電流を抑制するために、トランスと整流器の間に150Ωの抵抗を設置しています。詳細は“電源整流回路におけるリップル電流の低減方法”"を参照ください。

 平滑回路には、寿命に制約がある電解コンデンサの使用を避け。高電圧、大容量の平滑用として、販売されているシズキのRUZシリーズフィルムコンデンサを使用します。指月電機製作所のホームページによれば電圧のディレーティングは不要となっています。

 整流管としては、5AR4がよく使われていますが、UV-211と形が似ている6BY5GAを入手できたのでこれを使用します。UV-211と似合っています。

ヒータ電源回路

 交流点火も考慮しているのか、UV-211用のトランスのヒータ用出力電圧は、タンゴMS-UVDなど10Vがよく使われていますが、12.6Vと高くしています。電圧を高めに設定することにより、B電源回路と同じようにトランスとダイオードの間にリップル電流低減抵抗を設けることができ、また容易に平滑性を良くできます。
 フィラメントの寿命は電圧による影響が大きいといわれており、電圧を少し下げると長寿命化が期待できそうです。電球の寿命に関して多くの報告があります。(7)(8)
 ヒータに印加する電圧は、定格の10Vではなく少し低めの9~9.5Vにして長寿命化を狙っています。真空管が使われていた時代の電源事情を考えると±10%程度の電圧変動には問題なく対応できると思っています。
 整流管の6BY5GAのヒータも6.3Vではなく抵抗で低めに設定しています。

回路図
回路図

メンテナンスが容易な2階建構造


前面からのメンテナンス

 一般的な真空管アンプはシャーシの上に部品を並べ、配線は、上下ひっくり返して底の蓋を外して行う構造になっています。重量があるとひっくり返すという作業は、大変 です。制作予定のアンプは30kg程度になると思われ、据え付けた状態で前面からのメンテナンスができる構造としました。

luxmq88ul
一般的な構造 LUX MQ-88uL
UV-211アンプ
スリムな2階建構造 前面カバーを外した状態

スリムな2階建構造

 2階部分に真空管とトランスを取り付け、それ以外の部品を1階部分に取り付けることにより、幅430mm、奥行き250mmとスリムにできました。また天井を設け上に他の機器を乗せることができ配置がしやすくなりました。 ただ、UV-211と奥にあるトランスの間隔が25mmと狭くなっています。名機と言われるQUADⅡパワーアンプの出力管KT-66とトランスとの間隔が10mm程度なので 25mmあれば充分と考えていますが、気にはなっています。

上から見る
天井を外した状態 手前に真空管、奥にトランス
前面下部=
1階部分 手前にヒータ電源回路とバイアス回路

 1階部分手前には、組み立て後に調整が必要となるヒータの電源回路と。UV-211のバイアス回路が並んでいます。前面カバーを外すだけで調整作業ができるので大変楽です。セメント抵抗がたくさん見えているのは、電圧調整の結果です。大型のアンプには打って付けの構造です。

背面
背面板を外した状態

 3mm厚のアルミ板とアングルで取付板を作りましたが、トランスの重みに耐えられず、僅かですがたわみます。1階部分中央の平滑用コンデンサの両側に見える六角ボルトで底からトランスの重みを突っ張って支えて、たわみはなくなりました。底にゴム足も追加しアンプ台(床)から支えています。


冷却ファンの追加


 出力トランスの温度上昇が気になっています。前にUV-211が迫り、背後はアルミ板で塞いでいます。使用条件を超えるような温度上昇ではないと思いますが、貴重なトランスなので、ファンで冷却し大事に使いたいと思います。
 天井部分に、手持ちのパソコン用12cmファンを2個取り付けます。1個は、DC12V 1000回転/分、他方はDC12V 1600回転/分です。1600回転/分のものは、抵抗を直列に接続しおよそ1000回転/分になるようにしています。1000回転/分以下ならファンの音は気にならないと思います。

UV-211ファン
天井に取り付けたファン

遮熱板の追加


UV-211からの輻射熱の遮蔽

 トランスの冷却用にファンを追加しましたが、さらにUV-211とトランスの間に遮熱板を設置しUV-211からの輻射熱を遮蔽することを検討したいと思います。詳細は“真空管からの輻射熱の黒い遮熱板による遮蔽"を参照ください。

反射板

 赤外線電気ストーブのヒータの背後には鏡面の反射板があり、赤外線を反射し、反射板それ自身はそれほど熱くならないようです。ただ反射板では、真空管に輻射熱を戻すことになり、悪影響が心配です。またパワーアンプは、わたしの真正面にあるので、反射板が真空管の後ろにあると周囲となじまず、フィラメントのオレンジの輝きを楽しんでいる気持ちがそがれます。

黒い遮熱版

 薪ストーブと背後の壁の間に置く遮熱板は、黒いものが多いようで黒くても効果がありそうです。輻射熱は、遮熱板に吸収されその温度は上昇しますが、遮熱板は、対流と熱伝導によって冷却され、その温度は抑えられます。遮熱板の温度が200℃以下なら輻射はほとんどなく、熱の移動は対流と熱伝導が支配的になります(10)。遮熱板が100℃程度で熱の移動が対流と熱伝導であれば、遮熱板とトランスの隙間が5mmあれば空気層で十分断熱されると思います。

黒い遮熱版の設置

 手持ちに厚さ0.25mmの亜鉛メッキ鋼板(トタン)があったので、これを使用します。遮熱板の冷却という点ではアルミの方がよいと思いますが、とりあえず手持ちの材料を使いました。225mmx270mmにカットしてL字に曲げ、Holts耐熱PAINT 黒(耐熱温度600℃)を塗布します。1200Wのオーブントースターで15分の過熱を2回行いました。
 温度計を持っていないので定量的な評価はできませんが、遮熱板の効果は大きいと感じます。遮熱板は加熱されますが、手で触れますので100℃以下でしょうか。トランスの温度上昇はかなり抑えられています。

遮熱板
遮熱板 (UV-211背後のグレーの板)

ヒータ電源 ブリッジダイオード取付位置の変更


 ヒータ電源に古いものですが東芝のブリッジダイオード S5188 を使用しています。左側面のアルミ板に取り付けていますが、発熱が気になります。温度上昇を検討してみたいと思います。
 アルミ板の面積は、20(cm)x24(cm)=480(cm2)、ブリッジダイオードを2個取り付けるので 1個当たり 240cm2となります。 厚さは、2mmなので、熱抵抗を、「ディスクリート半導体 熱設計の勘どころ」(9)により求めると、左側面のアルミ板の熱抵抗は、3℃/W となります。
 東芝S5188のデータを見つけられなかったので、順方向電圧降下を1.1Vと想定すると、ヒータの電流は定格が 3.25A なので 発熱量は、 1.1x3.25=約4(W) となります。温度上昇は 4x3=12(℃)となります。
 アンプ下段の内部の温度上昇を 10℃ とすると、合計の温度上昇は 22℃ となります。問題になるような温度ではないのですが、気にはなります。
 取り付け位置を面積の大きい背面のアルミ板にすると、ブリッジダイオード1個当たりの面積が 860cm2 となり、熱抵抗は 1.5℃/Wとなります。温度上昇は 4x1.5=6(℃)となります。アンプの下段内部の温度上昇を10℃とすると合計で16℃となります。6℃の低下で効果は小さいような印象を受けますが、アレニウスの10℃半減則(諸説あるようですが)からは相当な長寿命化が期待できそうです。かなり荒っぽい計算ですが、取り付け位置の変更はそれほど大変ではないので実施することにします。

UV-211アンプ背面
UV-211送信管パワーアンプ 背面
ブリッジダイオード
背面板に取り付けたブリッジダイオード

後記


UV-211フィラメント
オレンジ色に輝くフィラメント
(Sun Valley Prime Tubes 211です)

 期待通りすがすがしい音が出ています。送信管UV-211と出力トランスの相乗効果なのでしょう。プレート電流が48mAとなり予定より小さいですが、実際に使用しているときの最大出力は2Wなので問題はありません。また、耳をスピーカーに近づけてもハム、ノイズはほとんど聞こえず電源回路にも問題はないようです。ただ発熱量が200W近くあり夏向きではないようです。夏用に発熱量の少ないアンプが必要です。
 トランスとヒータ電源のブリッジダイオードの発熱が気になっていましたが、2020年8月にファンの追加とブリッジダイオードの取付位置の変更を行いました。ファンの効果は大きく、低速回転でも有効です。ブリッジダイオードの発熱も抑えられ、安心して音楽を楽しめます。
 2020年9月に追加した遮熱板の効果も大きいと思います。ただ、奥行きは30mmほど大きい方が良かったように思います。


参考文献


(1)上杉佳郎 管球式ステレオアンプ製作80選 下巻 2011-5-25 誠文堂新光社 
(2)松並希活 直熱&傍熱管アンプ 2002-8-8 誠文堂新光社
(3)森川忠勇 オーディオ真空管アンプ製作テクニック 2008-3-3  誠文堂新光社
(4)真空管(Electron tube) 規格表データベース https://tubedata.jp/ 2020-8-10閲覧
(5)柳沢正史 真空管アンプ製作24選 2009-10-1 誠文堂新光社
(6)長 真弓 真空管アンプ設計製作自在 全面改訂版 2009-2-1 誠文堂新光社
(7)石﨑 有義 白熱電球の技術の系統化調査  国立科学博物館 北九州産業技術保存継承センター技術の系統化調査報告共同研究編 第4集 2011-3-31 http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/070.pdf 2020-8-19閲覧
(8)ウシオ電機ホームページ ハロゲン電球の基礎 光技術情報誌「ライトエッジ」No.22 2001年9月 https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200109/100260.html 2020年8月19日閲覧
(9)東芝デバイス&ストレージ(㈱)アプリケーションノート ディスクリート半導体 熱設計の勘どころ 2017年12月
(10)ヒートテック(株) 技術情報 光加熱の物理 https://www.heat-tech.biz/category/products-hph/hsh-gj/hsh-gj-hhn/hsh-gj-hkb/ 2020年9月2日閲覧