3A5真空管コントロールアンプの制作

 “UV-211送信管パワーアンプ"で直熱3極管を使用したので、コントロールアンプにも直熱3極管を使用しオール直熱3極管を実現したいと思います。小型のミニチュア管で電圧増幅に使用できる直熱3極管というと3A5の他に選択肢はないように思います。3A5は移動無線機の高周波、低周波増幅、発振回路に使用されたものですが、オーディオ用としても定評があります(1)(2)。パワーアンプに使用した送信管UV-211と並べると全長が約5cmのかわいい真空管です。

3A5コントロールアンプ
自作3A5真空管コントロールアンプ
3A5、211真空管
左:3A5 右:UV-211真空管

2019年12月掲載


トーンコントロール


トーンコントロールの必要性

 トーンコントロールは必要と思っています。詳細は高域を補正し10代の感性を取り戻そうでまとめています。ここでは、回路構成について検討します。

AE形のCR形トーンコントロール回路

CR形トーンコントロール
一般的なAE形のCR形トーンコントロール回路

 コントロールアンプ、メインアンプ全体を負帰還をしない構成としたいのでトーンコントロール回路も負帰還を用いないCR形とします。一般的なAE形のCR形トーンコントロール回路は上図のように、VR1がBASS、VR2がTREBLAの調整用でボリュームの12時の位置でフラットになり、左へ回すと下降、右へ回すと上昇となっています。ただ、フラットな特性になるには、BASSの場合VR1の摺動子で上下に分け、このVR1の上下の比率とC1,C2の比率、さらに全体での上下の比率が同じである必要があります。TREBLEの場合も同じようなことがいえます。さらに前段の出力インピーダンスより充分大きく、次段の入力インピーダンスより充分に小さい必要があります。これは難しい課題で実際にはフラットにならないことがあるようです。

英国形のCR形トーンコントロール回路

CR形トーンコントロール
英国形のCR形トーンコントロール回路
1:FALL, 2:FLAT、3:RISE

 AE形は、1つのボリュームで上昇と下降を兼用するところに無理があります。下降を使う必要性は低いと思われるので、上昇のみにするという方法もありますが、せっかくトーンコントロールを設けるのでここでは、上昇と下降をスイッチで切り替える英国形と呼ばれている方法を採用しようと思います。部品の定数は、上杉佳朗氏の設計例を参考にしました(5)。


必要ゲインの検討


 UV-211送信管パワーアンプでは、パワーアンプの使用範囲の最大出力2Wに対して必要な入力電圧は、入力トランスの1次側600Ωで1.4Vとなりました。コントロルアンプの出力には、10kΩ:600Ωの出力トランスを使用する予定です。トランス1次側の電圧は、
  1.4x√(10000/600)=5.6(V)
 コントロールアンプへの入力を基準200mV、最大2V(JEITA CP-1203) (3)とすると最大入力2Vに対し必要ゲインは、
  5.6÷2=2.8 ∴ゲイン=9dB

トーンコントロールは必要と考えているので、
  トーンコントロールの損失=20dB
音量調整ボリュームを12時の位置とするとA特性のボリュームの特性から1/6すなわち損失15dBとなります。バランス調整ボリュームもA特性のボリュームを使用するので、12時の位置とすると同じく損失15dBとなります。まとめると
  音量とバランス調整の損失ー15+15=30dB
したがって、必要ゲインと損失を合計すると
  9(ゲイン)+20(トーンコントロール)+30(音量とバランス)=59(dB)
となります。3A5の増幅率が15なので1段あたりの増幅度を10倍すなわち20dbとすると3段の増幅が必要ということになります。構成をまとめると下図のようになります。

ゲインの検討
3A5コントロールアンプ ゲインの検討

メインアンプとの接続


シールド線の浮遊容量

 メインアンプとの接続に使用するシールド線の影響について検討してみます。シールド線の浮遊容量は1mあたり数10pFから数100pFの範囲と思われます。代表としてJIS C3501高周波同軸ケーブル3C-2Vでは67pF/mとなっています。3C2V 1m当たりの20kHzでのインピーダンスを計算してみます。
  1/(2xπx20000x67x10ー12)=120x103
120kΩ/mとなります。私が音楽を聴いている7.5畳の部屋でも壁に沿ってケーブルを這わすと10m近くになります。ケーブル長が10mだとそのインピーダンスは12kΩとなり、3A5の出力インピーダンス10kΩ程度と比べて無視できない値です。出力インピーダンスを小さくする必要があります。解決策としてよく行われるのは、カソードフォロアーを設ける、負帰還により出力インピーダンスを下げる等の方法ですが、増幅段数も増やす必要があります。今回、全体を負帰還を使用しない構成としたいので出力インピーダンスを下げる方法として、トランスを設けることにしたいと思います。

トランスによる平衡伝送

平衡伝送
トランスによる平衡伝送

 

 コントロールアンプの出力と、メインアンプの入力にトランスを設け、トランス間は600Ωの平衡伝送とすることにします。コントロールアンプの出力トランスで発生したゲインのロスはメインアンプの入力トランスで回復できます。また平衡伝送とすることによりノイズの影響を受けにくくなります(4)。


電源回路


ヒータの電源回路

 AC12.6Vから三端子レギュレータを2段使用しています。当初ヒータの平滑回路は本体に組み込んでありましたが、詰め込みすぎでヒータ電圧の調整等がやりにくいことが分かり平滑回路部分はまとめて別ユニットとしています。ヒータ回路の発熱は、1本あたり0.22Aなので4本では
 12.3x0.22x4=11.0(W)
11Wとそれなりに大きいので低速回転のファンで冷却しています。

ヒーター電圧

 真空管の寿命を延ばすために、ヒーター電圧は低めに設定しています。3A5は電池駆動です。定格は1.4Vですが電池が1.4Vを維持している時間は短く1.0V程度までの電圧低下は許容されているように思います。1.1Vで試してみましたがプレート電流の変化もあまりなく正常に動作しています。

リップル電流低減抵抗

 リップル電流低減抵抗をB電源とヒータ電源のトランス巻き線と整流器の間に設置しています。これは、パルス状のリップル電流を低減しノイズの発生を抑え、コンデンサの寿命を延ばす効果があると考えています。詳細は“電源整流回路におけるリップル電流の低減方法”"を」参照ください。

制限抵抗
リップル電流低減抵抗

回路図


回路図
回路図

出力段

 3A5が双三極管なのでオーソドックスなパラレルシングルのトランス出力としています。トランスの信号源のインピーダンスを下げることで、低域特性が良くなるかもしれません(6)(7)。いくつかのバリエーションは将来の課題としておきます。

バランス調整ボリューム

 2段目と3段目の間にボリュームが入っています。これはレベル調整とバランス調整を兼ねたもので左右別々のボリュームです。このボリュームの前後のゲインを調整し、SN比を適切に保つことを狙っています。


内部の構造


内部写真
内部

マイクロフォニックノイズ

 3A5はマイクロフォニックノイズに弱いところががあります。通常の使用では気になりませんが、アンプの近くで手をたたくと、スピーカーからポンと音が出ます。機械的な振動に対しては、真空管を取り付けているサブシャーシを防振ジェルシートを介して取り付ける等の対策をしましたが、音というか空気の振動にも反応するようです。遮音等の対策を検討しようと思います。

3A5コントロールアンプ
平滑回路ユニット:左と本体:右
設置台
設置台

平滑回路ユニットの冷却

 平滑回路の損失は、ヒータに定格1.4Vを印加した場合に11Wで、自冷で問題はない値ですが、夏には結構温かくなり、気になるので設置台にパソコン用冷却ファンを設けました。800回転/分程度ですので、音は全く気になりません。長寿命化には、温度を下げるのが効果的と思います。800回転/分以下ならファンの音は気にならず、冷却効果は大きいです。


後記


 UV-211パワーアンプと接続すると期待通り満足できる音が出ています。負帰還を行っていませんが自然な聴きやすい音です。トランスの効果もあるのでしょうか、CDを気持ちよく聴けるように思われます。耳をスピーカーに近づけてもハム、ノイズは全く聞こえず直熱管ですが平滑回路も問題はないようです。


参考文献


(1)征矢 進 『無線と実験』2011年 6月号 誠文堂新光社 
(2)新 忠篤 『管球王国』2008年 Vol48 誠文堂新光社
(3)長 真弓 『真空管アンプ設計製作自在 全面改訂版』2009年 誠文堂新光社
(4)木村 哲 平衡プロジェクト http://www.op316.com/tubes/balanced/index.htm 2019年12月23日閲覧
(5)上杉佳朗 『管球王国』2007年 Vol44』 誠文堂新光社
(6)木村 哲 私のアンプ設計マニュアル http://www.op316.com/tubes/tips/b290.htm 2019年12月23日閲覧
(7)ソフトン RW-20 シングル用ユニバーサル20W出力トランス http://softone.a.la9.jp/RW20.htm 2019年12月23日閲覧