増幅回路間は、いわゆる出力側LOWインピーダンス/入力側HIGHインピーダンスのコンデンサ結合方式が一般的ですが、コンデンサ結合では片側が接地電位となり伝送路が不平衡となりノイズの影響を受けやすくなります。
平衡伝送路の場合は、上の図に示すように近接して配置された2本の信号線に対し、外部からの影響で発生するノイズは、同相信号となり2本の信号線に電位差は発生しません。このようなノイズはコモンモードノイズと呼ばれていますが、このノイズが打ち消されるというのが、平衡伝送の強みです。
アンプ間の接続に使用するシールド線の影響について検討してみます。シールド線の浮遊容量は1mあたり数10pFから数100pFの範囲と思われます。代表としてJIS C3501高周波同軸ケーブル3C-2Vでは67pF/mとなっています。3C2V 1m当たりの20kHzでのインピーダンスを計算してみます。
1/(2xπx20000x67x10ー12)=120x103
120kΩ/mとなります。私が音楽を聴いている7.5畳の部屋でも壁に沿ってケーブルを這わすと10m近くになります。ケーブル長が10mだとそのインピーダンスは12kΩとなります。オーディオケーブルには、浮遊容量が明示されていないものも多く、インピーダンスがさらに小さいことも考えられます。
コントロールアンプの出力によく使用される12AU7や、私が使用している3A5の内部抵抗は10kΩ程度なので、前述のケーブル10mのインピーダンスが無視できず、高域の減衰の原因になります。
トランジスタは内部抵抗が小さいので、出力インピーダンスも小さくなりますが、真空管は内部抵抗が大きいので、出力インピーダンスを小さくすることが課題の一つです。解決策としてよく行われるのは、カソードフォロアーを設ける、負帰還により出力インピーダンスを下げる等の方法ですが、増幅段数を増やすことが必要になる場合もあります。トランスを設けると負帰還を使用しないシンプルな構成で、出力インピーダンスを下げることができます。
トランス結合にすると、増幅回路間が絶縁でき容易に平衡伝送路を実現できます。伝送路のインピーダンスも低くでき、低インピーダンスの平衡伝送により、ノイズの影響を小さくでき、高域の減衰も気にならなくなります。
3a5真空管コントロールアンプとUV-211送信管パワーアンプの、平衡伝送路の例を次に示します。
電話回線が600Ωを採用していることが影響しているようで、音響機器の平衡伝送路のインピーダンスは600Ωが標準として採用されてきました。入力または出力インピーダンスが600Ωのトランスは、ライントランスと呼ばれています。
平衡伝送路のインピーダンスは、600Ωが標準として使われてきましが、ライントランスは入手が難しくなっています。汎用の2次インピーダンスが16Ωの出力トランスを使用できれば選択範囲が広がります。汎用の出力トランスを使用した16Ω平衡伝送路は、次のようになります。
受け側のパワーアンプの入力トランスとしては、汎用の16Ωの出力トランスを一次、二次を逆に使用します。上の図に示した600Ω平衡伝送路のゲインは √(50/10)=2.2(倍) 7(dB) となりますが、下図の16Ω平衡伝送路 A案の場合はゲインはありません。
UV-211パワーアンプの場合、実際の使用時の最大出力が2Wで14kΩ側の信号は12.3Vとなるので、各トランスの出力は 12.32/14000=0.011(W) となります。
インピーダンスのマッチングは行わず、入力600Ωのトランスに接続します。出力LOW-入力HIGHTの接続となります。この場合ゲインのロスが √(16/600)=0.16(倍) -16(dB) となります。
UV-211パワーアンプと接続する場合、実際の使用時の最大出力が2Wで600Ω側の信号はで1.2Vとなるので送り出し側の出力は 1.22/16=0.09(W) となます。
平衡出力アンプ側の出力インピーダンスを16Ωとするために抵抗を接続しています。
パワーアンプの入力トランス(ノグチ FM-600-50kCT)には、一次巻き線にセンタータップがあるのでここに接続します。この場合ゲインのロスが √(16/150)=0.32(倍) -10(dB) となり、B案よりゲインロスは小さくなります。
UV-211パワーアンプと接続する場合、B案に比べ送り出し側の出力は1/4(W)になります。平衡出力アンプ側の出力インピーダンスを16Ωとするために抵抗を接続しています。
マッチングトランスとして春日無線 KA-1280(1.2k-600Ω:16Ω)を使用し、インピーダンスのマッチングを行ないます。UV-211パワーアンプと接続する場合、各トランスの出力は、0.0024(W)となります。信号レベルが小さすぎてひずみ率が悪くなるかもしれません。
600Ωと16Ωの平衡伝送路の選択と相互に接続するためのインピーダンス変換器です。 双方向変換セレクターでは解りにくいので、コンピュータネットワークの”ブリッジ”という機器名を借りて”ラインブリッジ”と呼ぶことにしました。
詳細は16Ω-600Ω ラインブリッジ(双方向変換セレクター)を参照ください。
平衡伝送路を共用するために、送り出し側と受け側にセレクターを設けます。また相互に接続ができるように送り出し側にマッチングトランスを設け、16Ωと600Ωとの双方向変換ができるようにします。
相手機器と平衡伝送を行わずRCAコネクタで接続するときは、下の図のように 出力トランスの2次巻き線に600Ω(または16Ω)を並列に接続しています。600Ω(または16Ω)のローインピーダンス出力となり、ハイインピーダンスの機器と不平衡接続ができます。
接続には ITTCANNONのXLRコネクターを採用しました。プロオーディオで使用されているものです。嵌合するとしっかりとロックされます
600Ωと16Ωの平衡伝送路をラインブリッジ(双方向変換セレクター)で切り替えて使用しています。自作の再生システムでは色々と気になるところが出てきますが、XLRコネクタを含め低インピーダンスの平衡伝送路には気になるところがありません。ケーブルの長さを気にしなくていいのも安心です。