2E24送信管パワーアンプ

 出力管には、小形の送信管2E24を使用することにしました。2E24は、小形ながらビーム管として使用するとAB2級で42W(CCS:連続運転)の出力があります。メタルベースで見た目も頑丈そうなつくりで使ってみたくなりました。

2E24送信管パワーアンプ
自作2E24送信管パワーアンプ

2020年2月掲載

2020年9月更新

 ファンを天井に直接取り付け、高さが10mm低くなりました。併せて項目の追加等を行いました。


設計出力の設定と出力管の選択


直熱ビーム管2E24

 “アンプに必要な出力の検討"で、アンプの使用範囲の最大出力は2W、設計出力(クリップ寸前のひずみ率5%の値)は10Wあれば理想的としました。“UV-211送信管パワーアンプの制作"で、設計出力10Wのシングルアンプを作りましたが、発熱が200W近くあり夏向きではないことが分かりました。
 ここでは、発熱を抑えた夏向きのアンプを検討します。設計出力10Wの目標も下げて、使用範囲の最大出力2Wの2倍4W以上のプッシュプルアンプとしたいと思います。小形の直熱送信管にこだわると直熱ビーム管2E24に出会いました。

2E24
2E24送信用真空管
2E24規格表
2E24真空管規格表
Frank's Electron tube Pages(1)より抜粋

ビーム管のスクリーングリッド電圧の制限

 2E24の規格表で、AB2級の場合を見るとプレート電圧が500V(ICAS)であるのに、スクリーングリッド電圧は200Vと低く抑えられています。3極管接続で200Vを守ると出力はかなり小さくなってしまいます。本来のビーム管としてはAB2級で42W(CCS:連続運転)の出力があるのに、その性能を有効に生かしていないことになります。

ビーム出力管
ビーム出力管(2)

 ビーム管本来の使用方法では、スクリーングリッドには一定の電圧が印加されます。プレートとスクリーングリッドの電圧差が小さいと、コントロールグリッドに加えられる信号によりプレート電圧が変化すると、プレート電圧がスクリーングリッド電圧より低くなる期間ができます。プレート電圧がスクリーングリッド電圧より低くなると、フィラメント(傍熱管ではカソード)から放出された電子がプレートに到達する前にスクリーングリッドに捕捉される比率が大きくなり、スクリーングリッドの発熱が大きくなります。スクリーングリッドの発熱を制限するために、その電圧を低く抑えることが必要になります。
 三極管接続では、スクリーングリッド電圧はプレート電圧と一緒に変化するので、低く抑える必要はなくなります。詳細は、参考文献(3)(4)を参照ください。  また参考文献(4)には、スクリーングリッドに規格表を超える電圧を印加した場合の特性をまとめられています。ここでは、フィラメント電圧を6.3Vではなく4Vとした場合にきれいな特性が得られることもまとめられています。この特性曲線を使って検討を進めていきます。

 
2E24特性カーブ
2E24三極管接続フィラメント電圧4Vの場合の特性曲線
http://our-house.jp/vtm/index.htm
小型直熱ビーム送信管2E24 活用術(4)から転載

ロードラインの検討


AB1級プッシュプル

 入手が容易な汎用の出力トランスでインピーダンスが最大のものは、8kΩと思います。使用予定のスピーカーのインピーダンスが6Ωなので、4Ω端子に6Ωのスピーカを接続すると1次側のインピーダンスは12kΩとなります。
 動作点をプレート損失10W(CCS)に対しプレート電圧450V、プレート電流20mAとして1/2(6kΩ)と1/4 (3kΩ)ロードラインを下の図に示します。出力は、プッシュプル出力回路の直列等価回路よりA級動作では
  (20mA/√2)2×12kΩ=2.4W
AB1級での最大出力は
  ((250V×2)/√2)2/12kΩ=10.4W となり、設計出力10Wが達成でき、我が家で使用する最大出力と考えている2WはA級動作範囲に入ります。

2E24AB1級ロードライン
AB1級プッシュプルロードライン

A級プッシュプル

 手持ちの電源トランスの都合でB電源の出力を、DC330V、120mAとして検討します。2E24のプレート損失が10W(CCS)であるので、下の図に示すように、動作ポイントをプレート電流は30mA、プレート電圧を300Vとして1/2(6kΩ)ロードラインを引きます。A級での出力は、プッシュプル出力回路の直列等価回路より
  (30mA/√2)2×12kΩ=5.4W
我が家で使用する最大出力は2Wと考えているので、5.4Wは十分な値と思われます。

A級プッシュプルロードライン
A級プッシュプルロードライン

AB1級10WかA級5.4Wか

 どちらも捨てがたいスペックです。A級で5.4Wは、十分な出力と思われます。AB1級の10Wも魅力的です。スクリーングリッド電圧の制限を外した(4)成果だと思います。二兎を追うことにします。A級で制作し、出力に不満を感じれば動作点を変更しAB1級にするという危うい計画です。


B電源回路


電源トランス

 手持ちの電源トランス(LUX8A54)、チョークコイル(山水C-5-250)を活用したい。電源トランスには290V(CT)と260V(CT)の端子があるので、両方の電圧で検討します。

A級プッシュプル用 電源トランス(LUX8A54)290V端子を使用する場合の平滑回路

  290V端子を使用した場合のシュミレーションを行います。290V端子ピーク値は290x√2=410(V)。また、R1は仮にプレート電流を30mA/本として設定します。R2はコンデンサへのリップル電流低減抵抗です。詳細は“コンデンサへのリップル電流低減抵抗”"を参照ください。
 下の図に示す回路で平滑回路の出力電圧等を LTspiceでのシュミレーションで求めます、 330V、120mAのB電源が可能となります。A級プッシュプル用の電源として使用できます。

平滑回路
平滑回路
平滑回路シュミレーション
平滑回路シュミレーション

AB1級プッシュプル用 電源トランス(LUX8A54)260V端子を使用する場合の平滑回路

 290V端子では出力電圧が330V、120mAとなりましたが、500V程度のB電源の可能性を検討します。260V端子はCT方式で電流容量はDC220mAあります。ブリッジ整流を行うと出力電流は1/2になりますが出力電圧は2倍の520V端子となります。R2はコンデンサへのリップル電流低減抵抗です。詳細は“コンデンサへのリップル電流低減抵抗”"を参照ください。
 下の図に示す回路でトランスの520V端子を使用した場合の平滑回路の出力電圧等をLTspiceによるシュミレーションにより求めます。
 500V、80mAのB電源が可能となります。AB1級プッシュプル用の電源として使用できます。

平滑回路
平滑回路
平滑回路シュミレーション
平滑回路シュミレーション

トランス結合の単段アンプ


トランス結合と平衡伝送

 コントロールアンプとパワーアンプの接続ケーブルは、どうしても長くなりがちです。私が音楽を聴いている7.5畳の部屋でも、壁に沿ってケーブルを這わせると10m近くになります。増幅回路間は、いわゆる出力側LOWインピーダンス/入力側HIGHインピーダンスのコンデンサ結合方式が一般的ですが、コンデンサ結合では片側が接地電位となり伝送路が不平衡となりノイズの影響を受けやすくなります。またNFBを使わないノンNFBで素朴な構成にしたいと思っていますが、そうするとコントロールアンプの出力インピーダンスを低くできず浮遊容量による高域の減衰も気になります。
 トランス結合にすると、増幅回路間が完全に絶縁でき容易に平衡伝送路を実現でき、伝送路のインピーダンスも低くできます。低インピーダンスの平衡伝送により、ノイズの影響を小さくでき、高域の減衰も気にならなくなります。またトランスによる音質向上の効果も期待できそうです(5)(6)。

 3a5真空管コントロールアンプとの、平衡伝送路の例を次に示します。

平衡伝送路の例
平衡伝送路の例
トランスドライブ
トランス結合

トランス結合 A級プッシュプル

 特性曲線より、出力5.4Wのときのグリッドの信号は
  80(Vpp)=80/2√2=28.4(Vrms)V
巻数比の大きな入力トランスとして、ノグチトランスの600Ω:50kΩの入力トランスを使用すると、トランスの入力電圧は
 28.4/√(50000/600)=3.1(V)
となります。入力トランスの最大入力電圧10Vに収まっています。実際に使用する最大出力は2Wですが、このときに必要な入力電圧は
  6.2/√(5.4/2)=1.9(V)
これらの入力電圧は、前段のコントロールアンプで出力が可能であると思います。従って、トランス結合の単段構成のアンプとします。

 しかし、これらの値は”JEITA CP-1203A AV機器のアナログ信号の接続要件”で示された パワーアンプ(ボリューム無し)は、”基準動作入力レベル 1V”で定格出力が得られ、プリアンプの”基準動作出力レベル 1V、最大出力レベル 3V以上” という規定に対しては大きな値です(7)。コントロールアンプと組み合わせて確認したいと思います。

 (一部訂正2019.02.08)

トランス結合 AB1級プッシュプル

 特性曲線より、出力10Wのときのグリッドの信号は
  50/√2=35.4(Vrms)V
巻数比の大きな入力トランスとして、ノグチトランスの600Ω:50kΩの入力トランスを使用すると、トランスの入力電圧は
 35.4/√(50000/600)=3.9(V)
となります。入力トランスの最大入力電圧10Vに収まっています。ただ、コントロールアンプでの出力としては厳しい値と思われます。実際に使用する最大出力は2Wですが、このときに必要な入力電圧は
  7.8/√(5.4/2)=2.4(Vrms)
前段のコントロールアンプで出力が可能であると思います。10Wの出力は実際には不要なので、トランス結合の単段構成のアンプとして進めます。

 これらの値は”JEITA CP-1203A AV機器のアナログ信号の接続要件”で示された パワーアンプ(ボリューム無し)は、”基準動作入力レベル 1V”で定格出力が得られ、プリアンプの”基準動作出力レベル 1V、最大出力レベル 3V以上” という規定に対しては大きな値です(7)。コントロールアンプと組み合わせて確認したいと思います。

 (一部訂正2019.02.08)

回路図


入力トランス

 入力トランスは、他のパワーアンプにも共用したいので別ユニットに分けます。

スピーカー端子

 一般にスピーカー端子は、左右それぞれに 0,4,8,16Ωと4個の端子があります。これに左右4本のスピーカーへのケールを接続するのは、メンテナンス時に結構厄介です。プロオーディオで使用されている ノイトリックのスピコンspeakONを採用しました。4極のものに左右4本のケーブルを接続すると結線ミスも防げて便利です。

ノイトリックのスピコンspeakON
ノイトリックのスピコンspeakON
回路図
回路図

 A級プッシュプルとAB1級プッシュプルの二兎を追ってきましたが、A級プッシュプルで制作をすすめ良い結果を得ました。AB1級プッシュプルは実機での確認はしていません。


構造


天井のある構造

 一般的な真空管アンプはシャーシの上に部品を並べ、天井はありません。天井があると上に積むことができ、ほこりは積もらないので大変便利です。

2E24送信管パワーアンプ
2E24送信管パワーアンプ

天井ファン

 電源トランスが結構温まるので、天井にファンを取り付けました。800回転/分なのでファンの音は気になりません。ファンがなくても問題になるような温度上昇ではありませんが、ファンを付けると落ち着きます。

2E24送信管パワーアンプファン
2E24送信管パワーアンプ上面
2E24送信管パワーアンプ内部
2E24送信管パワーアンプ内部


後記


 素直な音です。A級プッシュプルとAB1級プッシュプルの二兎を追いましたが、A級プッシュプルでよい結果が得られたのでAB1級プッシュプルは実機では確認していません。設計出力5.4Wで充分です。“自作3A5コントロルアンプ"と接続し常用しています。自作UV-211送信管シングルアンプを使う機会が減りました。耳をスピーカーに近づけてもハム、ノイズはほとんど聞こえず電源回路にも問題はないようです。


参考文献


(1)Frank's Electron tube Pages 、http://www.tubedata.info/、(閲覧2018年8月23日)
(2)伊藤糾次 基礎電子工学[Ⅰ〕1968年 昭晃堂
(3)大久保システムズのホームページへようこそ!、http://www2.ucatv.ne.jp/~m_okubo.moon/index.html (閲覧2018年8月20日)
(4)小型直熱ビーム送信管2E24 活用術、http://our-house.jp/vtm/index.htm、(閲覧2018年8月18日)
(5)松並希活 『直熱&傍熱管アンプ』 2002年 誠文堂新光社
(6)柳沢正史 『真空管アンプ製作24選』2009年  誠文堂新光社
(7)長 真弓 『真空管アンプ設計製作自在 全面改訂版』2009年 誠文堂新光社