今回は、コントロールアンプの定番である6FQ7と12AU7を候補としました。直線性は6FQ7の方が優れているようですがハムを拾いやすく、12AU7の方が雑音対策は優れているようです(1)。6FQ7はヒータの電流が2倍になり許容プレート損失は大きいです。33kΩのロードラインを引いてみました。少し部品を変更すると両方とも使えるようにできそうです。6FQ7で制作し、少しの改造で12AU7も使えるように二兎を追うことにします。
低域は音量を絞ったときに持ち上げて補正したくなります。また高域は加齢による聴力の変化に対応するための補正が必要になると思っています。ただ、FALL特性は使用していないのでRISE特性のみを検討します。
詳細はトーンコントロル再考でまとめています。抜粋は次の通りです。
上図は、高域を補正し10代の感性を取り戻そうよりの抜粋です。等ラウドネス曲線(5)を90phonの等ラウドネス曲線に対する各音圧での差異(4kHz以上は80phonの値に対する差異)を表すように書き換えたもので、音量を絞ると低域が削がれることを示しています。高域は90phoneから60phonに絞って若干の影響がある程度です。これを補正することをラウドネスコントロールと呼んでいます。
元々、ラウドネスコントロールは音量ボリュームと連動し、トーンコントロールとは別に設けられていたと思いますが、すっかり見かけなくなりました。
ラウドネスコントロールの低域の補正機能をトーンコントロールのBASSのRISE特性で置き換えることを試みます。高域はTREBLEの補正に含められると思います。音量ボリュームとは連動しないので手動で調整します。。
上図のLTspiceシュミレーション回路でロータリースイッチを使用して抵抗R2とコンデンサC1をセットで変化させることにします。複数の変数をセットで変化させるときは、LTspiceの.stepコマンドと配列を組み合わせると大変便利です。”LTSpiceの使い方 小技その11”(6)を参考にしました。詳しく説明されています。
シュミレーション結果は下図の通りです。ラウドネス曲線の補正としてかなり近いと思います。20Hz辺りまで周波数が低くなるにつれて補正量が大きくなっています。6接点のロータリースイッチを使用する予定なので、3dBステップでMAX約15dBの補正になります。
上図は、高域を補正し10代の感性を取り戻そうより抜粋した加齢による可聴値の周波数特性の変化を表したもので、加齢により高域が聞き取りにくくなることを示しています。前項の”90phonの等ラウドネス曲線に対する各音圧での差異”とは少し異なった曲線です。
上図のLTspiceシュミレーション回路で、ボリュームR5によって抵抗値を変化させた場合のLTspiceでのシュミレーション結果は下図の通りです。”加齢による可聴値の周波数特性の変化”の補正としてかなり近い曲線です。高域でFALL特性が現れていますが、C3により高域をカットしていることによるものです。高域を延ばしてもあまりいいことはないように思っているので、この回路で制作することにします。
BASSとTREBLEを合わせた総合特性をシュミレーションします。R2、C1、R5をセットで変化させます。改良点は色々あると思いますが、一応納得できる特性が得られましたのでこの回路で制作することにします。
トーンコントロール回路の前段の出力インピーダンスは、トーンコントロール回路のインピーダンスに比べ充分に低インピーダンスでなければならず、次段の入力インピーダンスは充分に大きい必要があるので、トーンコントロール回路の前後を増幅回路で挟む2段増幅の形になります。
2段増幅の形のゲインの計算をします。6FQ7の場合、増幅率が21、内部インピーダンスが10kΩ、負荷抵抗が33kΩとすると 増幅度は 33/(10k+33k)x21=16.1(倍)、24(dB)となります。12AU7の場合は、増幅率が18になるので 増幅度は、33/(10k+33k)x18=13.8(倍)、23(dB)となります。ボリュームは、12時の位置にするとー15dBです。トーンコントロールは前項の計算でー22dBです。全体では次の図のようになります。
フォノイコライザーアンプとの接続を予定しています。フォノイコライザーアンプにもNFBを使用しないつもりですが、NFBを使用しないと真空管のバラツキがそのまま左右のアンバランスになりバランス調整が必要になります。
フォノイコライザーアンプは微弱信号を扱うので極力簡素にしたいので、バランス調整機能はコントロールアンプに設けたいと思います。ただ、他の入力機器のバランス調整と共用にすると入力を切り替えるたびに、バランス調整を行う必要があり煩雑です。コントロールアンプにフォノイコライザーアンプ専用のバランス調整ボリュームを設けたいと思います。フォノイコライザーアンプ以外の入力は、DACやデジタル機器なのでバランス調整は不要だと思います。コントロールアンプ、パワーアンプ等の再生システム全体のバランス調整は、コントロールアンプの後に接続を予定しているドライバーアンプでゲインの調整と一緒に行おうと思っています。
コントロールアンプにはINPUT SELECTがつきものですが、このロータリースイッチの周囲はシールド線で大変込み合い制作するのに厄介な部分です。またノイズの影響を受けやすい部分です。フォノイコライザーアンプ以外の入力機器の切り替えは、思い切って外部で行うようにします。“信号源の各種セレクターの制作"のソースセレクターを使用します。コントロールアンプの配線が大変すっきりします。
トランスのヒータ用出力電圧は、8Vです。電圧を高めに設定することにより、B電源回路と同じようにトランスとダイオードの間にリップル電流低減抵抗を設けることができ、また容易に平滑性を良くできます。
一方の真空管のヒータが断線した場合に他方のヒータが過電圧になり続けて断線しないように、平滑回路を左右の真空管に別々に用意しています
フィラメントの寿命は電圧による影響が大きいといわれており、電圧を少し下げると長寿命化が期待できそうです。電球の寿命に関して多くの報告があります。(7)(8)
ヒータに印加する電圧は、定格の6.3Vではなく少し低めの6V程度にして長寿命化を狙っています。真空管が使われていた時代の電源事情を考えると±10%程度の電圧変動には問題なく対応できると思っています。
リップル電流低減抵抗をB電源とヒータ電源のトランス巻き線と整流器の間に設置しています。これは、パルス状のリップル電流を低減しノイズの発生を抑え、コンデンサの寿命を延ばす効果があると考えています。詳細は“電源整流回路におけるリップル電流の低減方法”"を参照ください。
ケースは、アルミ板(厚さ2mm)とアングルで制作します。今回は、横山テクノ"https://www.yokoyama-techno.net/detail/44.html"で切断品を購入しました。アルミ板はもう少し薄くてもいいかもしれませんが、2mmあるとアングルで補強しなくてもしっかりしている等、構造を簡単にできます。
穴あけはあまり精度良くできないので、仮組み立てを行って修正しながら組み立てます。
中ほどに取付板を設け両面に電子部品を取り付けています。両面が使用できるので、信号回路の部品を真空管の近くに配置できます。今回は、上面にB電源回路とプレートに接続される部品、下面にグリッド、カソードに接続される部品とヒータ回路の部品を配置しました。片面のみ使用する構造の場合、信号回路の部品で真空管の周囲が大変込み合うことになります。
Rコアトランス(ソフトン M2-PWT)を使用しました。漏洩磁束が少ないということです(8)。薄形でリード線が直出しなのでトランスの周囲の構造が単純になり、電源がコンパクトになったように思います。取付板の両面に電子部品を取り付ける構造の場合、一般的な伏形トランスのメリットは、あまり無いように思います。
6FQ7でよい結果を得ましたので12AU7では実機確認はしませんでした。特性を変更したトーンコントロールを気持ち良く使っています。ツマミを 回しても、しばらく聴いていると補正したことを感じなくなります。特性が自然なのではないでしょうか。
インプットセレクターは、"ソースセレクター"として別ユニットに分離し、出力段は、“6922ドライバーアンプ"として分離したので、このコントロールアンプは大変シンプルな構造になり、レベルの異なる信号線が輻輳することもなくなりました。1つの筐体にあまり詰め込まないようにして行きたいと思います。